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経済産業省DXレポートで語られた日本ITの未来「2025年の崖」とは?

経済産業省から発表された「DXレポート」は、日本の将来に警鐘を鳴らす内容として大きな注目を集めました。特に「2025年の崖」という、時期まで指定した副題に、その危機感の大きさを示しており、現在の日本の問題が指摘されています。本記事ではDXレポートに関してのポイントをご紹介いたします。

経済産業省DXレポートで語られた日本ITの未来「2025年の崖」とは?

経済産業省のDXレポートとは?

この記事で取り上げる「DXレポート」は、正しくは「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」という報告書です。その内容をまとめると、「これまで企業が使ってきたシステムでは新しい時代に対応できなくなり、新しいシステムに乗り換えないと、海外の競争相手に負けて国全体が没落してしまう。それを回避するためには、各企業や業界がデジタルトランスフォーメーションを意識的に進めるしかない」というもので、その目標として「2025年までに」という期限を切っているのが特徴です。

この報告書は突然出てきたものではありません。IT業界の関係者や学識経験者を含めたメンバーで構成される研究会での意見や提言をまとめたものです。経済産業省がメンバーを招集して研究会を立ち上げたのが2018年の5月、報告書が公表されたのが9月ですから、かなりのスピード感をもって進められたことが分かります。

一般的に見て、企業がいつどのタイミングで自社のシステムを新しくするかは、その企業自身が決めることです。にもかかわらず、敢えてこのような形で経済産業省が提言を行ったのには意味があります。今のままでは近い将来、必ずや日本の産業界全体に大きな問題が発生してしまうと明確に判断しているのです。日本で事業を行っている会社なら、業界に関係なくこの報告書の内容を把握し、その提言を受け止めなくてはならないでしょう。

DXとは?

さて、ここまで何回となく出てきた、報告書のタイトルにもなっている「DX」ですが、恐らくあまり聞いたことのない人もいるのではないでしょうか。

DXは「デジタルトランスフォーメーション(Digital transformation)」とも言い、もともとはスウェーデンの大学教授であるエリック・ストルターマンが2004年に提唱した言葉です。簡単に言えば「業務環境をアナログからデジタルに移行させよう」という意味です。しかし、日本は銀行のオンラインシステムやインターネットの高速回線、携帯電話やスマートフォンの普及など、世界の中でも比較的早期にデジタル技術を取り入れてきた国です。それでもまだまだ足りないということでしょうか?

実はDXが想定している「デジタル」とは、その一歩先を指すものなのです。報告書の中でも引用されている、その定義の内容を易しく言い換えれば「今、世界的に見て企業を取り巻く環境は大きく変化しています。その変化に対応するには、組織の形や社員の働き方、価値観などを変革させながら、『新しいプラットフォーム』を活用して新サービスを生み出し、顧客満足度を上げていくことが求められます」ととらえることができます。

この中で重要なのが、「新しいプラットフォームの活用」についてです。新しいプラットフォームとは、ITの進化によって生まれた、クラウド、ソーシャル、モビリティ、ビッグデータ、AI、IoTなどの新しい社会環境や技術のことを指します。今やGAFAとして世界を席巻するGoogleやAmazonなどもこれらを活用しており、あるいは自らがそうしたプラットフォームを作って提供する側にもなっています。言い方を変えると、多くの日本企業はこれらのプラットフォームの活用が足りていないということです。

2025年の崖とは?

報告書の副題にもなっている「2025年の崖」。冒頭でも述べましたが、このキーワードが報告書における大きなポイントです。これは、「もし企業がDXへの対応を怠れば、2025年には大きな問題となるだろう」という警告を表しています。具体的に、どのような状況に陥ってしまうと推測されているのでしょうか?

実はこの「2025年」には、複数の大きな転換期が同時に襲ってきたり、それまで隠れていた問題が表面化してくるタイミングが指摘されています。だからこそ、そこから逆算して「腹を決めるのならば今しかない!」と、報告書でアピールしているのです。 報告書が公開されたのは2018年。そこから2025年まで、その猶予はわずか7年しかありません。

企業は通常、5年程度の中期計画を策定して、個々の事業計画に落とし込んでいきます。それに先んじて提言を行い、その内容を企業の計画に反映してもらうためには、7年前でもギリギリのタイミングと言えるのです。

2025年に起きる悲観シナリオ

2025年、どのようなシナリオが描かれているのか、その概観を見てみましょう。提示されている要素が非常に多岐にわたるので、ここではDXに失敗した場合の悲観的なシナリオを、ある程度かいつまんで紹介します。

今使われている企業のITシステムはそのまま刷新されていないという前提で話を進めます。当然DXも未遂に終わったということです。そのため、技術の老朽化が大きく進み、2025年には、実に全体の6割もの企業が、21年以上前のシステムを使い続けているでしょう。

このような古くなったシステムを無理して使っているため、システムの構造は次第に複雑で肥大なものとなり、全体像さえ把握することが困難になります。部署ごとに施したカスタマイズは、担当者の離職や異動で中身や経緯が分からなくなり、何か問題が出ても直すことが困難になります。

こうしたシステムの保守に必要な古い技術を知っている社員は定年退職などで減っていきます。使っている技術が古いため、新しい技術に詳しい人の育成もできません。これは外注している先のシステム会社でも同様です。顧客が使っているシステムが古ければ、それに引きずられて新しい技術の導入にもブレーキが掛かります。

しかし、事業の成長に必要とされるIT人材はどんどん増えていきます。結果、2025年には必要とされる技術を持ったIT人材が43万人も不足することになるのです。 このような状況では、経営に必要な情報がリアルタイムに取得できず、新しい事業の創造どころか、市場の変化にもついていけません。こうした足かせによる経済的な損失は、年間で12兆円にも達します。破綻や倒産する企業も続出し、社会不安が日本全土を覆っているでしょう。

なぜ2025年なのか? その他の要素

このように、「2025年」という時期が明記されているのは、「このままでは、6割もの企業が21年以上前のシステムを使う」状態になるからです。しかし、理由はそれだけではありません。他にもいくつも要素があります。

まず、2020年を境に、世界的に自動運転の実用化が広まると予想されています。自動運転の実用化には、AIやクラウド、高速通信など、まさにDXの要素が欠かせません。それを生産する企業側がDXをおろそかにしていては、産業全体が衰退してしまいます。自動車は日本の経済を支える大きな産業分野です。そこで後手に回るわけにはいかないのです。

また、同じく2020年の東京オリンピックを契機にして、これまで以上にインバウンドの需要が増大し、外資企業の参入も活発になると予想されています。そうなると弱体化した国内企業は負けてしまうでしょう。あるいは買収されて、虎の子の技術が流出してしまうかもしれません。

日本の産業の屋台骨を支えるインフラ分野でも大きな変化があります。それは電力やガスの自由化です。これによって電力では送配電が、ガスではガス導管が分社化されると予想されています。

こうしたインフラ産業も、「DX」時代では単に電気やガスを送るだけのものではなくなっており、データの活用など様々なデジタル技術をふんだんに導入していくことが世界的に求められているでしょう。 これら複数の環境要素が2025年をめがけて襲ってくることから、この年をゴールにしてDXを進めて行こうと提言されているのです。

このままでは起きる3つの問題

2025年に想定されるシナリオの概観を述べましたが、あらためて想定される問題点を詳細に解説していきましょう。DXレポートでは、大きく3つの要素を上げて、システムが刷新されない場合の問題点を整理しています。

それは「データやサービス」「管理費高騰と技術的負債」「人材不足とセキュリティ」という3点についてです。少し専門的な話になりますが、大事なことなので個々に見ていきます。

データを活用しきれず、サービスが老朽化する

近年、ビッグデータやAIの開発など、いかに有意義なデータを入手して活用するかが企業活動において問われています。

「DX」時代では、社内のデータと社外のデータを連携させて新しいサービスを提供したり、得られたデータを元にして事業判断を行うことが当たり前の世の中になっていきます。しかし、旧来のシステムではそれらを処理する能力に欠けています。部分的に新しい技術を導入しても、大本になっているシステムと連携ができなくては真価を発揮できません。

そもそも日本ではITに関するコストの8割が、いま動いているシステムの保守や、既存業務の運営に当てられています。新しいサービスの開発に人や予算を掛けないため、収益性が高まりません。一度作ったサービスも十分に改善されず、老朽化や小手先対応になりがちです。

市場変化が激しい状況では、変化に応じて新しいサービスを柔軟に提供し、提供したサービスはこまめに改善されることが求められます。しかも2025年には、これまでのITサービス市場とデジタル市場の規模が逆転するとも見られています。増大化していくデータを活用し、常に新鮮なサービスを維持していくためにはどうしてもDXが必須なのです。

システムの維持費が高騰し、技術的負債が増大する

旧来のシステムを使い続けた場合、新しいものに刷新するための移行コストが掛からないというメリットはあります。しかしそれは、いずれ必要となる費用の支出を先延ばししているに過ぎません。しかもその間、新しい利益を生み出すための環境が整わないわけですから、本来得られたであろう利益との差額は膨らむばかりです。

さらに、単年度で見てもシステム維持費の負担が上がっていきます。 車でも、新しいものは故障が少なく、機能が揃っているので何か追加する費用も掛かりません。古いものは故障が多く、足りない機能を足すにはその都度費用が掛かります。燃費が悪ければ維持費も必要になります。 システムも同じことで、古いものは性能が悪いだけでなく、何かと維持費や追加費用が発生します。

ここで避けて通れないのが「技術的負債」です。技術的負債とは、目先の対応でシステムを改修したり機能追加をしたりして、結果、長期的にはメンテナンスや運用のコストが増大してしまうことを言います。目先しか見ていない技術の投入が負債としてシステムに残り、掛かるコストも文字通り負債として残ってしまうわけです。

このような技術的負債は、後から解決するのは困難です。古いシステムを使い続ければ続けるほど、負債は積もりに積もって企業の経営を圧迫します。やがて2025年になる頃には、DXを行う余力もなくなり、負債の後始末をするだけで手一杯になってしまうでしょう。

保守人材が不足し、セキュリティリスクが高まる

それでもなんとか、古いシステムを刷新しないで頑張ったとしても、やはり2025年頃には限界が来ます。そうしたシステムを維持していくための人材がいなくなってしまうからです。 今やITシステムは、国境や国籍を超えて開発や採用活動が行われています。国内で営業する外資企業もますます増えるでしょう。

そんな中、先行きのない古いシステムに必要なスキルを、自ら進んで学習しようという若者は極めて少ないと考えられます。終身雇用が崩壊した今、社員に対して先行きのないスキルを強制すれば、他の会社に逃げられてしまうだけです。そもそも会社の方こそ、いざDXを果たした際には、古い技術しかもたない社員をリストラしてしまうかもしれません。 古いシステムの運用は、既にその業務に当たっている中高年に頼らざるを得ません。

しかしそうした人材は、高齢化とともに社内からいなくなってしまいます。ただでさえ上がっていく維持費も、さらに高騰していくでしょう。 問題はそれだけではありません。企業が扱うデータが増大すれば、外部への漏洩やサイバー攻撃、事故や災害に対する備えもますます必要になっていきます。しかしそれらの業務を担う人材が減っていくのですから、セキュリティの必要性とは裏腹に、むしろリスクは増大します。何か事件が起きれば企業への信頼性は落ちてしまい、その規模によっては、組織の存続に関わる大問題にもなりかねません。

明るい2025年を迎えるために

DXレポートで指摘されているように、「2025年の崖」への対応は待ったなしです。古いシステムを刷新して、新しい時代に対応できるシステム環境を作らなければなりません。

そこで最後に明るい話題をお届けしましょう。DXに失敗した場合の悲観的なシナリオをお伝えしましたが、報告書では、同時に明るいシナリオも用意されています。それは、もしDXが全産業にわたって実現され、2025年の崖を乗り越えることができたなら、5年後の2030年には実質GDPが130兆円以上伸びるというもの。2018年のGDPが558兆円ですから、23%も伸びるというのです。

例えばマイクロソフトではそのための産業ごとにDXシナリオを用意しています。ぜひこれらのシナリオを参考に2025年を乗り越えてみてはいかがででしょうか。

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