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「巨大IT規制法案」の閣議決定で、巨大ECサイトはどう変わる?

日本国内で市場拡大を続ける巨大EC(電子商取引)企業については、以前から「一定の規制を設けるべき」という意見があります。そして令和2年、楽天の送料無料化問題なども起こる中、政府によって「巨大IT規制法案」が閣議決定されました。 この法案の目的は何なのか、今後の動向と合わせて解説します。

「巨大IT規制法案」の閣議決定で、巨大ECサイトはどう変わる?

巨大IT規制法案とは?

「巨大IT規制法案」は、令和2年(2020年)2月18日、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律案」として閣議決定されました。その後衆参両議院で可決され、今年度内にも施行されることが決定しています。

現在、世界各国で巨大化するEC企業に対する規制の動きが強まっており、日本でも法的な規制を求める声が徐々に高まっています。今回の法案は独占禁止法違反の防止を前面に掲げ、デジタルプラットフォーム事業者が優越的な地位を濫用して、消費者の個人情報を不正に取得することなどを禁じることが目的です。

具体的には、巨大EC事業を運営する企業に対して、契約条件の開示や変更に関する事前通知が義務づけられました。これにより、企業は年度ごとに運営状況を経済産業省に報告しなければなりません。報告をもとに経済産業省は企業の評価を行い、運営状況などを公表します。法案に従わない場合には罰則規定もあり、取引の公平性を保つ上で一定の効果が見込まれています。

対象企業はGAFAなどの大手ECプラットフォーマー

今回の法案の対象になる企業については、政府は本年秋までに要件などをまとめ、2021年春の法律の施行をめざしています。

現時点で規制対象の候補に挙がっている企業は、「GAFA」と呼ばれるデジタルプラットフォーム界の巨大企業です。これは「Google・Apple・Facebook・Amazon」の4社を指しています。

これらGAFAに対しては、すでに自民党による意見聴取が行われており、最終的には楽天、ヤフーを加えた大手EC企業が規制対象になるとみられています。

法案の狙いは?

法案の目的は独占禁止法違反の防止とされていますが、実際には市場に甚大な影響力を持つ巨大EC企業を規制して、それらの取引先となる中小企業を守る狙いがあるようです。

ECサイトは多くの出店者で成り立っていますが、楽天による送料無料化問題のように、実際には大手EC企業に優越的地位があり、小規模な出店者はその意向に従わざるを得ません。この状況が独占禁止法に抵触する疑いがあるため、今回の規制法案が閣議決定し、成立する運びとなったと考えられます。 現在、アメリカでは社会に対する影響力が大きくなりすぎたECプラットフォーマーに対して、その力を抑制する動きがあります。日本での今回の法案も、同様の狙いがあると見て良いでしょう。

さらに今回の法案では、大手EC企業がその立場を利用して、消費者にとって不利益になる個人情報を取得することも禁じています。これも、大手EC企業の優越的地位を制限することが狙いのようです。

デジタル市場で起きている課題

GAFAはいずれもアメリカに拠点を置く巨大IT企業で、インターネット上で商品やサービスの提供と、情報を管理するプラットフォーム(基盤)の地位を確立していることから、「デジタルプラットフォーマー」と呼ばれています。

2019年9月時点でGAFAの時価総額合計はおよそ350兆円と、経済大国ドイツのGDP(国内総生産)に匹敵する規模に膨れ上がっています。ここまで巨大化したECサイトの運営母体と、そのサイトを利用する事業者との間には、想像以上の力関係ができていると言えるでしょう。

現在、日本国内でも、この2者間でのトラブルが問題になっています。一例として、契約条件や手数料変更の一方的な通告、事業者に事前の説明もない出店舗の閉鎖などが報告されています。

NHKによる取材によると、オンラインショッピングモールに出店していたアパレル販売の店舗は、ある日突然自身の店舗のサイトが閲覧できなくなったそうです。それに対するEC企業側からの説明は、メール1通のみでした。契約条件では、閉鎖などの場合は事前に通告されるはずでしたが、店舗の閉鎖は一方的に行われ、協議をしても事態は解消せず、結局アパレル店舗側が継続を断念せざるを得ませんでした。

こうしたケースも含めて、ECサイトに関してはトラブルの増加が懸念されています。

新法案の実効性と楽天の送料負担問題

規制法案の実効性については、楽天の送料無料化問題が一つのヒントになるでしょう。楽天が運営する「楽天市場」では、消費者が1店舗で3,980円以上の買い物をした場合、送料を一律無料にする方針を示しました。

問題はこの送料負担が、出店者側にかかってくることです。当然出店者側は反発、「楽天ユニオン」を結成し、独占禁止法違反として公正取引委員会に調査を依頼しました。

公正取引委員会はこれが独占禁止法の優越的地位の濫用にあたると判断し、楽天への立入検査を行った上で、東京地裁に緊急停止命令を申し立てました。 この対応に、楽天側は送料無料化をいったん見送りましたが、現在は新型コロナウィルスにともなう特別措置と位置付け、今後改めて送料無料化について協議することを表明しています。

ECサイトとプラットフォーマーに対しては、既存の商取引関連法では取り締まれない問題も浮上しています。楽天問題でも独占禁止法だけでは対応が難しく、政府としては新たに「巨大IT規制法案」を成立させることで、EC市場を規制する狙いがあるのでしょう。

しかし規制法案の実効性については、早くも疑問の声があがっています。規制を厳格化するための禁止事項と罰則規定があいまいで、特に違反した場合の罰金が最大でも300万円以下など、抑止力の弱さが指摘されています。

海外での大手プラットフォーマーに対する動き

果たしてこの巨大IT規制法案で、GAFAのような巨大EC企業の規制が可能なのでしょうか。それを確かめるためには、より大きな市場を持つ海外での対応を参考にする必要があるでしょう。

気になるアメリカの動きは

GAFAの生みの親とも言えるアメリカですが、2019年にフランスが巨大IT企業に対するデジタル課税を導入した際には、フランスからの輸入品に関税を上乗せする構えを見せました。巨大IT規制法案がアメリカとの貿易摩擦に引きがねになることは、日本としては絶対に避けたいところです。

一方、アメリカでは、巨大EC企業の活動を抑制する動きも出てきました。たとえば2020年の大統領選挙に出馬したエリザベス・ウォーレン民主党議員は、現在は選挙戦から撤退したものの、GAFAの解体を公約に掲げていました。

また2019年7月には、アメリカ司法省がGAFAに対して、「反トラスト法(日本における独占禁止法)」違反の疑いで調査を始めることを発表しています。

この背景には買収を繰り返して巨大化するEC企業への、アメリカ政府の潜在的な危機感があると見られます。巨大EC企業に対して厳しい姿勢をとるEUに比べて、アメリカの規制は緩やかでしたが、今後はGAFAに対する社会的な圧力が強まる可能性があります。

イノベーション促進と法規制の両立図る中国

世界最大の市場を持つ中国では、GAFAなどの海外企業を抑えて、BAT(バイドゥ・アリババ・テンセント)と呼ばれる国内デジタルプラットフォーマーを、政府が主導的にバックアップしてきました。

しかし中国国内でも規制の動きが強まり、2019年には巨大デジタルプラットフォーマーに対して厳しい制限を課す「電子商取引法」が施行されています。この法律では優越的地位の濫用や、個人情報の不適切な取得などが厳格な規制の対象です。

ただし、中国政府は適正な規制と同時に、デジタルプラットフォーマーによるイノベーションの促進も視野に入れているようです。法律によって市場を適切に管理しながら、政府とIT企業が一体となって最先端のデジタルプラットフォームを構築することが、中国政府の狙いなのでしょう。

まとめ

日本では「巨大IT規制法案」が閣議決定されましたが、巨大EC企業の規制に対する実効性は未知数です。今後法律として施行される際には、独占禁止法との連携や追加的な法整備によって、さらに効果を高めていく必要があるでしょう。

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