政府の指針「脱ハンコ」がもたらすメリットや自治体での動き

 2021.02.24  デジタルトランスフォーメーションチャンネル

テレワークの導入や生産性向上の妨げになるとして、廃止を求める声も多い「ハンコ」。政府指針により、脱ハンコを目指して法改正もなされており、今後書類に押印する慣習は廃れていくものと予想されます。本記事では、脱ハンコがもたらすメリットやデメリット、押印に代わって書類を証明する手段、今後に向けた自治体の動きなどを解説します。

政府の指針「脱ハンコ」がもたらすメリットや自治体での動き

政府が押印についての指針(ガイドライン)を掲示

内閣府・法務省・経済産業省は2020年6月、押印についての指針(ガイドライン)をまとめたものを発表しました。これは、契約書などにハンコを押す商習慣がテレワークの障害になっており、ほかの手段で代替できることを示したものです。

ハンコは、本人が文書を作成したことを証明する手段として、広く長きにわたって使われてきました。しかしながら、法令で押印が義務付けられているのは不動産の売買契約や、会社の取締役会関連の書類など一部であって、通常の契約書などへの押印は慣習で続いているだけに過ぎませんでした。

政府が今回発表したガイドラインはQ&A方式を採っており、契約書に押印しなくても法律に違反しないことや、本人が作成したものだと示す証拠としては、押印では限界があることを明記しています。押印は省略できるほか、取引時にやり取りしたメールアドレスや本文、送受信の記録、SNSでのやり取り、電子署名などほかの手段に代替できるとして、「脱ハンコ」を促す内容です。

「脱ハンコ」の議論が盛んになった背景

最近になって脱ハンコが強く叫ばれるようになったきっかけは、やはり新型コロナウイルスの感染拡大を受け、テレワークを導入する企業が増えたことでしょう。企業の現場ではテレワーク中にもかかわらず、書類にハンコを押すためだけに出社する、いわゆる「ハンコ出社」を余儀なくされる実態が浮き彫りとなりました。

ハンコを廃止する取り組みは、IT系の大手企業が先行していました。しかし、2020年9月16日に菅政権が発足してからは、官民ともに脱ハンコやペーパーレス化の推進に関する議論が、盛んに行われるようになりました。そして同年9月24日、河野太郎行政改革担当大臣が全省庁に対して、原則的に行政手続きにハンコを使用しないよう要請します。

同年10月には、行政だけでなく民間企業も脱ハンコへ踏み切りやすくするため、「電子帳簿保存法」の改正が行われました。これは事前に国に申請し、法律に対応した電子化ツールを導入すれば、キャッシュレス決済の利用明細データを領収書として認めるというものです。さらに、請求書についても電子データで決済が可能になり、データを原本として保存することが法律的に認められるようになったのです。

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そもそも契約書に押印しなくても法律違反にならない?

ところで、これまで当然押すべきものと思われてきたハンコを、いきなり押さなくてもよいといわれても、不安に感じる方が多いのではないでしょうか。

前述した政府による「押印についてのQ&A」では、「契約は当事者の意思の合致により成立するものであり、書面の作成や書面への押印は、特段の定めがある場合を除き必要な条件とはされていない」という主旨の文が記されています。つまり、契約書に押印をしなくても、法律に違反することはないということです。

また、ハンコ以外にその文書が本人の作成だと証明する手段として、継続的な取引関係がある場合については、取引先のメールアドレス・本文・日時・受送信記録などが挙げられています。同様に請求書・納品書・検修書・領収書・確認書なども、文書の成立の真正を認める書類として提案されています。

新規に取引関係に入る場合、運転免許証、郵送受付やメールで送付したPDF送付、メール本文やSNS上のやり取りなどでも証拠として認められるようです。

脱ハンコにおけるメリットとは

書類にハンコを押す必要がなくなるだけで、行政や民間企業は、コスト削減や生産性の向上といったメリットを享受できるようになります。それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。

無駄なコストを削減

脱ハンコのメリットのひとつが、ペーパーレス化によってコストを削減できることです。紙の書類に代わって電子契約を採用すれば、用紙代やインク代、封筒代、プリンターのメンテナンス代などに費やしていたコストは必要なくなります。

実際にグループ15社で脱ハンコを推進し、電子契約サービスに切り替えた三井住友フィナンシャルグループでは、2020年11月の時点で年間1.7億円のコスト削減を見込んでいるようです。

また、課税対象の文書であれば印紙を購入しなければなりませんが、電子契約ならそもそも印紙税を納める必要がありません。印紙税の金額は契約金額によって変わるため、契約金額が大きいほどコスト削減につながります。

さらに、契約書を印刷して封入し郵送するための人件費や郵送費、紙の書類を保管するためのスペース、書類整理の手間なども省くことが可能です。

書類の保管場所と整理の手間を省ける

会社法関連の契約書は10年間、法人税法の契約書は7年間、それぞれ保管しておくことが義務付けられています。そのため、紙の契約書は物理的な保管スペースを要するほか、書類をファイリングする際の手間もかかります。保管場所を節約するために、スキャンしてPDFデータでパソコンに保存している場合でも、1枚ずつスキャンしなければならないのは結構面倒なものです。

その点、最初から電子契約を活用すれば、PDFに変換する必要がなく、保存にも場所を取りません。書類の保存スペースが不要になれば、より規模の小さいオフィスに移転することで、賃料を節約することもできるでしょう。

生産性の向上

脱ハンコが実現すると、書類作成や承認依頼などを簡略化できるため、生産性の向上にもつながります。

紙の書類の場合、テレワーク中でも押印や書類の発送・受け取りのために、わざわざ出社しなければならないという事態が発生します。さらに、紙の契約書を交わす場合には、印刷からホチキス止め、製本、押印、署名、封入、郵送などの作業が必要になり、契約に至るまで時間と手間がかかります。

電子契約であれば、契約書の作成から相手への送付までをネット上で行えるため、出社や書類の準備が不要になり、その分の時間を本来の業務に充てることが可能です。

また、紙の契約書を探す際には、キャビネットにしまわれている中からファイルを取り出して、目視で確かめなければなりません。電子契約書であれば相手の名前や日付などから、検索機能ですぐに目当ての書類を見つけられるので、探し物にかかる無駄な時間も省けるでしょう。

脱ハンコにおけるデメリット

このように脱ハンコは多くのメリットをもつ反面、いくつかデメリットもあります。

たとえば、ほとんどの契約では電子契約が認められますが、中にはデジタルデータ化が認められない文書もあります。投資信託契約の約款や不動産の賃貸借契約書などは、書面にして残しておくことが法的に定められているため要注意です。

また、社内でペーパーレス化を推進して電子契約に切り替える場合、初めは従来の業務フローを変更する手間がかかります。契約書の作成や書類の郵送を担当していたスタッフから、反発を買う可能性もあるでしょう。あくまで生産性の向上を目的としたペーパーレス化であって、人員削減のための施策ではない旨を納得してもらうことが重要です。

そのほか、社内だけでペーパーレス化を進めるのではなく、取引先にも事前に事情を伝えて理解を得る必要があります。仮に取引先からの理解が得られない場合、社内で管理する分はデータで、取引先とやり取りする分は紙でといったように、データと紙の2本立てで契約書を用意しなければならず、少々面倒に思えるかもしれません。

脱ハンコに向けた地方自治体の動き

上述した通り、菅政権は役所に行かなくても様々な行政手続きができるよう、改革を進めています。脱ハンコの旗振り役である河野行政改革相は、約1万5,000ある行政手続きのうち、99%の押印を廃止する方針を打ち出しています。千葉市や岡山県、福岡市などではすでに見直しが始まっているようです。

押印が廃止になる手続きの大半は、印鑑登録をしていない認印によるものです。詳細は以下のとおりです。

  • 住民票の写しの交付請求
  • 戸籍謄抄本の交付請求
  • 住民票の転入・転出届
  • 婚姻届
  • 離婚届
  • 出生届
  • 死亡届
  • 所得税の申告(確定申告)など
  • 給与所得者の扶養控除等申告書(年末調整)など
  • 自動車の継続検査(車検)
  • 車庫証明や道路使用許可の申請
  • 児童手当の受給資格及び所得に関する現況の届出

また、中には以下のように、押印を存続することが決まった手続きもあります。

  • 不動産登記の申請
  • 相続税の申告
  • 商業・法人登記の申請
  • 自動車の新規・移転・抹消登録

まとめ

これまで契約書に押印するのは当たり前のこととされてきましたが、政府が主導する脱ハンコに向けた取り組みにより、紙の契約書から電子契約書への移行が進んでいくものと思われます。契約書を紙から電子に切り替える際には、社内の業務フローを変更するだけでなく、取引先にも事前に説明し、理解を得ておくようにしましょう。

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