創薬へのAI活用について背景や課題などを解説

 2020.07.10  デジタルトランスフォーメーションチャンネル

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莫大な時間と費用を要する新薬開発において人工知能(AI)を活用する「AI創薬」が注目を浴びています。この記事では、AIを活用したAI創薬の概要と、いまAI創薬が注目される理由や背景、今後の課題について詳しく解説します。

創薬へのAI活用について背景や課題などを解説

AIとは

まず「AI」について簡単に振り返っておきましょう。AIは人工的という意味の「Artificial」と、知能を意味する「Intelligence」を組み合わせた「Artificial Intelligence」の頭文字を取ったもので、日本語では「人工知能」と訳されています。人工知能の研究と知識の普及を目的に設立された人工知能学会ではこの人工知能を「大量の知識データに対して、高度な推論を的確に行うことを目指したもの」と定義しています。つまり、「大量のデータを分析して、物事の予測をしたり、問題解決方法を見いだすコンピュータ技術」がAIであると言えます。AIの活用はあらゆる分野で始まっており、すでに私たちの生活になくてはならないものとなっています。

創薬へのAI活用が注目される背景

創薬の分野でもAIは注目されており、大きな期待を寄せられています。AIの導入により新薬開発のスピードを劇的に速め、開発期間を大幅に短縮して開発に要するコストを抑制できるというのがその理由です。

新薬を開発するにはまず薬のターゲット(標的)になる身体のタンパク質を発見し、次に薬の候補となる物質を探し出します。そして有効成分となる化合物を最適化な形にして、動物実験を経て人間に適用する臨床試験をクリアすれば、申請・承認に進むことができます。

しかし、薬の候補となる物質は製薬会社のライブラリーに存在するだけでも数万種ありますし、生体内のタンパク質は10万種以上ありますから、そこから最適な組み合わせを見つけ出すのは非常に困難な作業です。低分子化合物を利用した比較的シンプルな構造の薬は既に開発され尽くしているとも言われており、現代において新薬の開発が成功する確率は1/25000以下で、開発にかかる期間は10年以上、費用も1000億円以上かかるとされています。

この困難を極める新薬の開発において威力を発揮すると期待されているのがAIを活用したAI創薬です。ライブラリーの化合物や、まだ存在していない仮想化合物を生体内のタンパク質や30億あるヒトゲノムのデータと一つずつ突き合わせて化合物の結合予測を行うような演算をAIに任せることで、従来では考えられないような短期間かつ低コストで化合物を探し出し、また最適化することが可能になったのです。

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創薬へのAI活用のポイント「ディープラーニング」

AIを活用した創薬で大きなカギになる技術が、AIを実現するための「機械学習」と、その手法の一つである「ディープラーニング(深層学習)」です。

AIは事前に大量の事例を学習し、学習したパターンから最適なものを照合していきますが、機械に大量のデータを学習させてデータの特徴やパターン特性を覚え込ませるしくみを「機械学習」と呼びます。その機械学習のうち、人間の脳神経細胞の働きを真似て作られたのが「ディープラーニング」です。

一般的な機械学習では、学習のための「ヒント」を人間が入力します。例えば、「犬」の画像を識別できるような学習をさせたい場合は、「犬」というタグをつけた大量の画像データを機械に与えて学習させます。

それに対してディープラーニングでは、何を学習すべきかという「ヒント」も人間の手を借りることなく機械が自分自身で見出すしくみになっています。

このコンピュータ自らが問題点を見いだすディープラーニングによって、人間では気付くことができないような細かい差異や特徴を発見して、人の手では実現できなかった分野を切り開くことができるようになっています。ディープラーニングの技術を活用した「AI創薬」が注目されていることにはこのような背景があります。

創薬へのAI活用における課題

新薬開発のツールとして大きな期待が寄せられているAIですが、その一方でAI創薬の課題も指摘されています。

AIが威力を発揮するには学習の対象となる大量のデータが必要です。しかし、現状では医療データをAI創薬のために十分に利用できる環境が整っていないのです。

個々の医療機関が電子カルテなどの形で保有している医療データはあくまで治療を目的としたものであり、AIに学習させることを想定したフォーマットになっていません。また、個人情報保護などの観点でデータの集積に課題があることや、活用するためのシステムやストレージの構築に多額の費用が発生することなどが現状では課題として挙がっています。AI創薬を推進するためには、このような問題をクリアして、十分なデータを確保できる体制を整える必要があるのです。

さらに、データ収集にかかる期間の問題も存在します。例えば、認知症の原因となるアルツハイマー病の治療薬に対する需要は非常に高いのですが、老年期になって初めて発症することが多い病気であるため、基本的な比較データを収集するために特定の集団を一定期間追跡するとなると数十年かかる可能性もあるのです。

創薬へのAI活用に関する企業や大学などの動き

企業や大学でもAI創薬を促進する動きがでています。日本でも産学連携プロジェクト「ライフ インテリジェンス コンソーシアム(LINC)」が2016年に発足し、京大や理研などの研究組織や製薬会社、IT関連企業など120を超える団体が参加して約30種類の創薬AIの開発を進めています。

また、2020年に世界中を混乱に陥れた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についても、AIを利用した治療薬や予防ワクチンの開発が既に始まっており、NECは2020年4月にAIを活用しワクチンのターゲットとなりうるアミノ酸の配列を複数選び出す技術を開発しています。

このようにAI創薬をめぐる動きは今後さらに活発になっていくことでしょう。

まとめ

AIを創薬に活用することで開発期間の大幅な短縮を見込むことができます。また、開発費用も圧縮することができるため、AI創薬は新薬開発の新しい手法として大きく注目されています。その一方で、AIが必要とする学習データを集めることができる環境の整備が今後の課題となっています。

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