医療業界の現状と課題、動向について

 2020.07.01  デジタルトランスフォーメーションチャンネル

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日本では国民皆保険制度のもと、あらゆる人が質の高い医療サービスを受けることができます。しかし医療の現場は深刻な人手不足など様々な課題に直面しています。このような厳しい状況をどのように切り抜けて行けばよいのでしょうか。今回は日本の医療業界の現状と課題に焦点を当て、今後の動向も含めて詳しく解説していきます。

医療業界の現状と課題、動向について

少子高齢化時代を支える医療業界の現状とは?

医療業界には病院や診療所、薬局などの医療機関だけでなく、製薬会社※や医療機器・衛生用品のメーカー、医療関連の流通業界なども含まれます。まずは、それぞれの現場の現状や課題について見ていきましょう。

医療機関の現状

日本の医療機関の経営状況は全体的にはあまり良いとは言えず、日本にある病院の4割が赤字経営であるといわれています。超高齢化に伴い医療費の抑制が進められていることもあり、病院の経営は今後さらに厳しい状況になることが予測されます。

医療従事者の人材不足も深刻です。増え続ける患者に対して医療に従事できる医師や看護師の数が不足しており、需要と供給のバランスが取れていません。過重労働を強いられる医療従事者も多く、貴重な人材の休職や離職も大きな懸念となっています。

もちろん、これまでも医学部の定員増加など人材不足解消のための施策がとられており、厚生労働省の資料によると、医師の労働時間を週55時間程度に制限した場合でも、現役医師の人数が約36万人に到達する2033年頃に医師の需給バランスが均衡になるとの試算があります。

もちろん、医師の総数が増えても、すべての診療科で人手不足が解消するとは限りません。特に労働環境が過酷とされる外科、産婦人科、救急科などの志望者は限られており、今後も苦しい状況が続く可能性があります。

参照:厚生労働省医師需給分科会「医師の需給推計について」

医薬品業界の現状

医薬品には大きく分けて「医療用医薬品」と「一般用医薬品」があり、医師の処方が必要な医療用医薬品が市場の9割以上を占めています。医薬品の中でも特に需要が多いのは、糖尿病、高血圧などいわゆる生活習慣病に対して処方される薬です。

生活習慣病には決定的な治療法が確立していないものも多く、がんやアルツハイマー症候群など新薬の登場が待たれている分野も多くあります。多くの製薬会社は「アンメット・メディカル・ニーズ」と呼ばれるこれらのニーズに対応すべく新薬の開発を進めています。

しかし、日本の医薬品業界を取り巻く現状も厳しくなってきています。新薬の研究開発には莫大な費用がかかりますが、薬価の引き下げなどで開発費が回収できず、経営状態が悪化する場合もあります。

また外資系製薬会社との競争も激化しており、欧米の製薬会社に買収される企業も出てきています。日本の製薬業界も国際的な競争力の強化やバイオ医薬品への参入など生き残りをかけた施策が強く求められています。

医療機器・医療用品業界の現状

医療機器は「診断系医療機器」と「治療系医療機器」に大別できます。前者は内視鏡やMRIなど治療のための診断や測定を行う機器であり、後者はペースメーカーや人工関節など疾病の治療に使われる機器のことを指します。

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医療機器業界の需要は比較的安定しており、高齢化や医療技術の発展により今後さらに市場規模が拡大することが予想されています。治療系医療機器は約4割を輸入に頼っていますが、CTなど診断系の医療機器に関しては日本が比較的高い競争力を保っており、引き続き今後の展開が注目されます。

このほか、注射器やガーゼといった医療関連の消耗品を製造する医療用品業界もあります。こちらも医療機器業界と同じく安定した需要が見込めるものの、近年は外資系メーカーの台頭により競争が激化しています。現状では安定している分野でもあるといえますが、将来的には病院数の減少や医療費の削減による影響は免れられず、時代の変化に合わせた臨機応変な対応力が生き残りの鍵となるでしょう。

医療業界の課題「2025年問題」について

医療業界に関する「2025年問題」について耳にしたことがあるかもしれません。日本の人口の中で最も多くを占める1947年~1949年生まれのいわゆる「団塊の世代」がすべて後期高齢者である75歳以上となるのが2025年です。これにより日本は、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となり、世界でも例を見ない水準の超高齢化社会に突入します。未曾有の超高齢化が進んだ社会では、医療や介護、社会保障など、様々な面に深刻な影響が及ぶと考えられます。あと数年先まで迫った2025年問題は早急に対処すべき課題として取り沙汰されています。

人手不足が深刻な課題。2025年問題が医療業界に与える影響

では、2025年問題が医療業界にもたらす影響は具体的にどのようなものになるのでしょうか。

まず、医療ニーズが急増することは確実ですが、増えたニーズに対応しきれない可能性があります。75歳以上の後期高齢者を迎えると認知症やがんなど慢性疾患のもリスクも増大し、医療に対する需要がさらに増えることになります。しかし、現在でも深刻な人手不足に陥っている現場が増加した需要に対応できず、必要な医療が受けられなくなる可能性もあります。また、人材不足が根本的に解消されなければ、医師や看護師ら医療従事者がさらなる過重労働を強いられることになり、大量の離職者を生み出し悪循環に陥りかねません。

介護業界への影響も深刻です。超高齢化社会では必然的に介護サービスの需要も高まるため、現状のままでは介護保険の財源も厳しい状況に陥ります。また介護施設や介護士の人材不足は既に大きな問題となっており、要介護と認定されている高齢者でも介護施設に入所できないケースは少なくありません。このままの状況が続けば2025年以降は行き場を失くす高齢者がますます増加することが予測されています。

また、増え続ける社会保障費の問題もあります。少子高齢化が進行している日本では、医療費を支える15歳以上64歳未満の生産年齢人口も減少の一途をたどっています。このまま少子高齢化が進行すれば2040年には1.5人の現役世代で1人の高齢者を支えることになり、現役世代の負担がさらに大きくなり、十分な医療費を確保できなくなることも予想されています。医療費の財源を確保し現状の医療を継続するなら、社会保障費の増加や年金受給年齢の引き上げや減額も考慮しなければならず、国民全体の負担が大きくなることが予想されています。国の施策にすべてを任せるだけではなく、医療機関側でも対策を講じていく必要性があります。日本の医療業界にとって大きなターニングポイントとなる2025年はすぐそこまで来ています。

医療業界の動向と今後のあり方

来る2025年問題を数年後に控え、医療業界は今後どのように変わっていくのでしょうか。最後に医療業界の今後の動向について解説します。

地域包括ケアシステムの構築

今後の高齢者をサポートするしくみとして「地域包括ケアシステム」の構築が期待されています。地域包括ケアシステムでは、重度の要介護状態となっても住み慣れた場所で最後まで暮らせることを目指し、「医療」「介護」「住まい」「予防」「生活支援」などが一元的に提供されることを目指しています。この地域包括ケアシステムを実現するための具体的な対策としては、次のようなものが挙げられています。

  • 地域包括支援センターの設置
  • 24時間対応の在宅医療や訪問介護の整備
  • 低所得高齢者向け老人ホームの整備
  • 喫茶店や大学を活用した高齢者の居場所づくり
  • ボランティアによる高齢者の買い物支援

全国の各自治体が地域包括ケアシステムの構築に向けたこれらの取り組みを検討しており、東京都世田谷区などでいち早く実践が行われています。在宅サービスや自立支援型サービスをさらに充実させ、高齢者が”生きがい”を感じられるような仕組みを作ることが大切です。

ICT技術の飛躍的向上

ビジネス全般においてICT(情報通信技術)の導入は急速に進んでおり、医療分野でもICTの利活用が推進されています。ICTを取り入れ活用することで業務の効率化や人手不足の解消、経営状態の改善などが期待できます。医療分野でのICTの活用例としては、次のようなものが挙げられます。

  • 電子カルテや電子薬歴の導入
  • PCやスマートフォン、タブレットを用いた遠隔診療、オンライン診療
  • EHR(電子健康記録)を用いた病院、介護施設、薬局間での情報連携

これらのICTを利用した仕組みを活用することで、医療現場の労働環境を大幅に改善できると考えられます。医療現場におけるICTの必要性は今後ますます高まり、技術面でもさらに進化していくことが期待されています。

ジェネリック医薬品による医療費の抑制

ジェネリック医薬品は「後発医薬品」とも呼ばれ、新薬(先発医薬品)の独占製造・販売期間の終了後に、先発医薬品と同じ有効成分と効能で他の製薬会社から製造・販売される低価格な医薬品です。ジェネリック医薬品の場合、新薬開発にかかる莫大な費用を回収する必要がないため、低価格での販売が可能になるのです。もちろん、ジェネリック医薬品も厚生労働省の認可を得て製造販売されており、品質や有効性、安全性は先発医薬品と同等であることが認められています。

薬価が安いジェネリック医薬品を先発医薬品に置き換えて利用することで、医療費の抑制に大きな効果があるとみられており、国もジェネリック医薬品の使用促進を打ち出しています。

しかしながら、日本におけるジェネリック医薬品の数量シェアは諸外国と比較してそれほど高くありません。厚生労働省が公表した2019年の薬価調査によると、2019年のジェネリック医薬品の数量割合は76.7%で、米国の92%(2017年)、ドイツの87%(2017年)に比べるとまだまだ低い水準となっています。国は2020年9月までにジェネリック医薬品の数量シェアを80%まで高めることを目標としており、日本でもジェネリック医薬品の占める割合がさらに増えていく見込みです。

参照:厚生労働省「令和元年薬価調査結果」

厚生労働省「後発医薬品の使用割合の推移と目標」

スマートヘルスケアサービスなど普及

スマートヘルスケアとは、IoT(モノのインターネット)やVR(仮想現実)、AR(拡張現実)を活用した医療サービスのことです。

具体例として、センサーが搭載されたウェアラブルデバイスを用いて、体温、脈拍、血圧などのバイタルサインを測定し、ネットワークを通じてしかるべき医療機関にデータを送信するといったサービスが挙げられます。ウェアラブルデバイスとは身体に装着して使う情報端末のことで、医療分野ではスマートウォッチやVRゴーグルなどが用いられます。

スマートヘルスケアを活用するメリットとしても、次のようなものがあります。

  • 取得されたデータを患者自身の疾病予防や健康管理に役立てられる
  • 測定の効率化を図ると同時に複数の患者をモニタリングすることも可能になり、人手不足解消に貢献できる
  • 遠隔地からでもデータを取得し確認できるため、遠隔地医療の普及と推進に繋がる
  • 様々な患者から収集したデータを集積し、医療ビッグデータとして疫病学研究に役立てることができる

このように、スマートヘルスケアは患者にとっても医師にとっても大きなメリットがあると考えられています。今後さらなる普及が進めば、医療現場を取り巻く状況は大きく好転するかもしれません。

まとめ

日本の医療業界を取り巻く現状は総じて厳しく、早急に解決すべき課題が多く残されています。また、医療技術の急速な発展により、医療業界の状況は今後もめまぐるしく移り変わることが予想されています。現状の課題を明確にし、時代の変化に応じて適切に対処して行くことが医療の世界でも求められています。

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