小売業なら実践したいダイナミックプライシングとは?

 2019.11.13  デジタルトランスフォーメーションチャンネル

ダイナミックプライシングという言葉を耳にしたことがある方も少なくないでしょう。すでに海外ではさまざまな企業が導入しているダイナミックプライシングですが、近年では日本でも導入を検討する企業が増えています。ここでは、ダイナミックプライシングの基本情報や導入するメリット・デメリットなどをまとめてみました。

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ダイナミックプライシングの基礎知識

そもそも物の価格は、担当者が市場の需要や原価や仕入れ値など、あらゆる情報を収集し分析してから決定しています。しかしダイナミックプライシングとは、市場の需要によって価格が変動します。詳しく見ていきましょう。

ダイナミックプライシングとは

市場の動向に応じて商品やサービスの価格を変えることを、ダイナミックプライシングといいます。その時々の需要によって価格を変動させ、集客や利益の向上につなげるマーケティング手法の一種です。

例えば、ホテルだと平日とそれ以外では宿泊料金が変わることが多い傾向にあります。平日よりも土日、祝祭日のほうが多くの人が利用する傾向にあるため、宿泊料金を値上げするのです。また、新幹線や飛行機などもお正月、ゴールデンウィークなどの繁忙期には値上がりすることがほとんどです。

このように、需要が高まったタイミングで価格を上げることで、利益の最大化を実現するのがダイナミックプライシングです。導入がうまくいけば、これまで以上の利益を上げることも可能となるでしょう。

すでにホテル業界やスポーツ界、航空業界ではこの手法が積極的に用いられています。他社との差別化にもなり、利益の最大化も図れるため、近年では小売業界でもこの手法を導入しようと検討する企業が増えています。

複雑な条件をAIが分析

実際に導入して利益向上につなげるためには、価格を変更するタイミングや頻度を考えなくてはなりません。ただ、それらは業界によって異なり、さまざまな情報やデータをもとに考える必要があります。

そこで、最近ではAIを活用する企業も増えてきました。人工知能はすでにさまざまな業界で導入されていますが、それは小売業界も例外ではありません。需要に応じて価格を変えるという作業を、人ではなくAIが担ってくれるとなればコストの大幅な削減にもつながるでしょう。

先述したように、どのタイミングで値上げをするかが大切なポイントです。そのタイミングを算出するには膨大なデータやその時々の状況を正確に読み取る必要があります。しかし人間が正しく算出するには相当な時間がかかります。

そこでAIの出番です。AIならさまざまな情報を短時間で収集し、膨大なデータをベースにした計算も可能です。算出する回数が増えれば増えるほど精度も高まるため、ダイナミックプライシングにはもってこいなのです。

国内外の採用状況

すでに海外ではさまざまな業界においてダイナミックプライシングの導入が始まっています。例えば、日本でも大人気のネット通販大手、米国Amazonでは、需要に応じて1日に何度も価格を変更するといわれています。

また、オランダでは知らない人のいないスーパーマーケットチェーン、アルバートハインも導入している海外企業の一つ。イスラエルの企業と共同で開発したAIを使い、2019年5月から運用実験を開始しました。こちらのスーパーでは電子タグを使用しており、賞味期限や在庫、来客数などのデータから商品の価格を変更しています。

さらに、アメリカ最大のスーパーとして知られるウォルマートもこの手法を導入しています。「エブリディ・ロープライス(EDLP)」というキャッチフレーズのとおり、商品の安さで高い人気を誇るスーパーですが、近年では市場動向に合わせて価格を変更する戦略にシフトチェンジしました。

ただ最安値を売りとするスーパーのため、同地区のライバル店よりも価格が高かったときには返金を行うというプラスアルファの戦略も展開しています。

アメリカのスポーツ界でもダイナミックプライシングが導入されています。メジャーリーグの試合でも、注目の一戦や著名な選手が引退するときなどはチケットの価格が高騰します。それだけに留まらず、天気や開催する時期、チームのコンディションなども価格に影響を及ぼしています。

世界的な知名度と人気を誇るシンガー、テイラー・スウィフトのコンサートチケットもダイナミックプライシングを採用しています。ツアーによって観客動員数が不安定だったことと、チケットが高額で転売されることへの対策という、二つの要因が導入のきっかけとなりました。

もともとこのマーケティング手法はアメリカが発祥といわれています。そのため、アメリカではさまざまな業界がこの手法を積極的に導入しています。

では、日本はどうなのでしょうか。我が国でも少しずつ導入が始まっています。

例えば、家電量販店のビッグカメラは2021年までにすべての店舗において電子タグを設置し、この手法を導入する計画を推進しています。すでに東京の町田店において実証実験が行われ、導入するだけの価値があると判断。ビッグカメラが本格的に導入すれば、ほかの家電量販店も追随するでしょう。

このように、日本でもダイナミックプライシングを導入する企業は少しずつ増えています。今後はさらにさまざまな業界においてこの手法を用いる企業が増加すると考えられます。

また経済産業省では、食品ロスの軽減にもなるとダイナミックプライシングを推進しています。

部門別導入効果(SmartDB)
Intelligent Retail ソリューションガイド(2020年3月版)

ダイナミックプライシングの小売業と消費者への影響

小売業を営む企業がこの手法を導入するにあたり、企業側にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。また消費者への影響やメリット・デメリットはどうでしょうか。

小売事業者への影響

需要が多すぎるときには商品やサービスの価格を上げることで、利益を伸ばせるメリットがあります。週末や繁忙期など、多くの集客が見込めるタイミングで値上げすれば、普段以上の利益を生み出せるでしょう。また、逆に供給過多で集客が少なくなったときは、価格を下げることで集客を増やし利益を安定させられます。

価格変更に関わる作業を担当するスタッフの負担を軽減できるメリットもあります。価格の変更を行うときは、競合や市場のリサーチ、分析などのプロセスが欠かせません。相当な作業量となるため、スタッフはそれ以外の業務ができない事態に陥る可能性は十分考えられるでしょう。

しかし、ダイナミックプライシングを導入すればこうしたプロセスは省略できます。スタッフの負担を大きく軽減でき、現場での接客や陳列などの作業に時間をかけることができるようになるでしょう。

デメリットとしては、導入にあたりコストが発生することが挙げられます。プライシングを行うシステムの開発も必要となり、電子タグも導入しなくてはなりません。また、導入だけでなく運用するにもコストは発生します。

効果を最大化するには最適価格の精度も重要です。タイミングを見計らってベストの価格に変更する必要がありますが、精度が悪いと客離れにつながりかねません。たとえデータや需要に照らし合わせた上での値上げだったとしても、数値が大きくなり、災害などの自然環境の変化による高額な商品設定は、消費者から批判されてしまう恐れもあります。

導入にあたり、消費者からの理解を得ることは非常に重要です。消費者としては、それまで定価で購入できていた物がある日急に値上がりするため、戸惑いや怒りの感情を抱く方もいるかもしれません。企業に対し不信感を抱かせるきっかけになる可能性も否めないでしょう。

消費者に不信感を与えてしまうと、今の時代あっという間に悪評が広がります。SNSを通じてまたたく間に拡散され、利益を伸ばすどころか常連の顧客さえ失ってしまう恐れがあります。

また、これまで価格決定に携わってきたスタッフを再配置しなくてはならない問題もあります。これは、組織が大きいほど頭を抱える問題でしょう。大きな組織となると、価格決定に携わるスタッフの数も一定数いるはずです。ダイナミックプライシングを導入すれば、今後スタッフたちの、他の業務への配置転換が必要になることも考えられます。もちろん、ほかの部署などに再配置できるのなら問題はないでしょう。しかしそれができない場合、解雇もやむを得ない状況になるかもしれません。

このように、メリットが多い一方でデメリット、考慮すべき問題が生まれるかもしれないことを想定しておきましょう。

消費者への影響

需要が少なくなる時期には安くなるため、消費者は普段よりもお得な価格で商品やサービスの購入ができます。これが最大のメリットといえるでしょう。商品によっては、価格が下がったタイミングで大量に購入することでかなりの節約にもなるでしょう。

需要の少ない時期には値下げされますが、需要が高まる時期には逆に高くなるため、同じ商品を、これまでよりも高値で購入しなくてはならなくなる可能性もあります。それまでずっと定価で購入していた物が、突然高騰してしまい購入を断念しなくてはならなくなるケースも考えられます。

しかも、消費者からするとただ価格が上がっただけで、サービスの内容や品質などは変わっていません。商品やサービスの品質が上がっているのなら値上げも仕方ないと感じられますが、内容が同じでただ高くなっただけ、となるとデメリットとしか感じられません。

ダイナミックプライシング導入事例

国内でダイナミックプライシングを導入している企業の事例をいくつかご紹介します。販売している物やサービスの違いにより、さまざまな企業の戦略的ダイナミックプライシングを垣間見ることができます。

横浜F・マリノスの事例

横浜Fマリノスが鹿島アントラーズと決勝進出をかけて戦ったYBCルヴァンカップ。この試合におけるチケット価格の変動を見てみましょう。9/19~23日までは、サポーターズシートのチケットが早割価格2,000円にて販売されていました。9/24からは標準価格の2,500円で販売がスタートしますが、翌日には4,100円に高騰しました。

さらに、9/28には7,500円まで価格が値上げされています。ほかの座席も同様に、標準価格4,200円だったメインSA席は9/28には8,400円になっています。標準価格で売り出したものの、すぐにチケットが完売してしまったため横浜Fマリノスは価格を変更した、ということです。

2018年のルヴァンカップは、横浜Fマリノスのサポーターもかなり盛り上がっていました。久しぶりに優勝を狙えるところまで勝ち進んでいたため、普段よりも多くの人がチケットを購入しようとしたのです。多少チケットが値上がりしても横浜Fマリノスが勝つ姿を見たい、決勝進出の記念すべきゲームを観戦したい、という人が増えたのです。マリノスはダイナミックプライシングで大成功したということになります。

HISグループとコンビニの事例

HISとコンビニのポプラはクーポンアプリの利用で提携し、食品ロスを可能な限り少なくするためにこの手法を取り入れています。ポプラでは、消費期限間近の商品を登録し、その商品の購入に利用できる割引クーポンを発行しています。それを消費者にLINEやメールなどで配信し、受信者はお店でスタッフにそのメールを見せることで割引価格が適用されるというしくみです。

近年では、コンビニやスーパーにおける食品ロスが大きな社会問題となりました。廃棄にかかるコストも決してバカになりませんが、HISとポプラの取り組みは廃棄コストの抑制にもなります。

消費者からするとクーポンを提示するだけで、割引価格で商品を購入できるため、優先的にポプラを利用するようになります。他店との差別化にもなるため、集客対策としても有効といえるでしょう。

USJの事例

一年を通して多くの人が訪れる大阪の名所、ユニバーサルスタジオジャパン。そのUSJが、2019年からダイナミックプライシングを導入しました。これまでは7,900円の入園料金でしたが、入園者がそこまで多くない1月には7,400円に値下げし、2月以降は8,200~8,700円と価格を変動させています。

2月といえば中国の春節がある時期。そのため中国から多くの観光客がUSJに訪れます。需要が大いに高まるタイミングなので、この時期に7,900円から8,200円へと値上げを行いました。また、3月は春休みもあることから入園者数が増えると見込み、8,700円に値上げしています。

1月のような入園者の少ない時期でも、値下げすれば消費者はお得感を得られるため、足を運ぼうとする人も増えるでしょう。大阪は日本を代表する観光都市でもあるため、入園料が普段よりも安いとなればついでに観光しようとする人も増えるかもしれません。

まとめ

航空業界やホテル業界だけでなく、近年ではネット通販でもダイナミックプライシングの導入が始まっています。小売業界においても、今後たくさんの企業が導入を検討し始めるでしょう。検討する際は、消費者への影響や反応も予測した上で、双方のメリットやデメリット、課題などを十分に理解して進めることが肝心です。

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