企業も理解しておきたい厚労省の「健康寿命延伸に関する取り組み」について解説

 2021.02.25  デジタルトランスフォーメーションチャンネル

日本社会の少子高齢化が急速に進む中、厚生労働省主導のもと、医療や介護が必要のない状態を意味する「健康寿命」を伸ばす取り組みが行われています。本記事では、健康寿命の基本概念や、健康寿命の延伸に向けた厚生労働省の取り組み、そして、ICTなどを活用して民間の事業者が健康寿命の延伸に寄与しうる可能性について解説していきます。

企業も理解しておきたい厚労省の「健康寿命延伸に関する取り組み」について解説

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健康寿命とは?

健康寿命とは2000年にWHO(世界保健機構)が提唱した概念で、「継続的な医療や介護などを要さず、心身ともに自立した健康的な生活を営める期間」を意味し、英語では”Healthy life expectancy”といいます。

厚生労働省が健康寿命の指標として使っているのは、「日常生活に制限のない期間の平均」や「日常生活動作が自立している期間の平均」、そして「自分が健康であると自覚している期間の平均」で、2016年時点での調査では、日本人の健康寿命の平均は男性が72.14歳、女性が74.79歳となっています。
(引用元:
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/gaiyou/s1_2_2.html

健康寿命と平均寿命の違いは?

「寿命」と一言で言うと、多くの方が連想するのは「平均寿命」の方かと思います。この平均寿命と健康寿命の違いとは何でしょうか。

そもそも平均寿命とは、生まれてから亡くなるまでの平均的な期間を統計学的に示したものを意味します。前述の健康寿命の定義とは異なり、平均寿命の計算においては、その人が健康的であるかどうかは問われません。寝たきりであっても、壮健であっても、平均寿命の計算において、その違いは反映されないのです。

厚生労働省が発表した報告によると、2016年時点において、日本人男性の平均寿命は80.98歳、日本人女性の平均寿命は87.14歳となっています。この数字から先の健康寿命の平均値を引き算すると、日本人男性の場合は約9年、日本人女性の場合は約12年の開きが出ています。つまり、男性、女性共に、その人生において10年程度は"健康ではない"時期を送る可能性が高いということになります。
(引用元:https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/gaiyou/s1_2_2.html

健康であることは、人生における幸福度に直結する要素でもあります。すなわち、単に「長く生きる」のではなく、「健康的に生きる」ことに着目する健康寿命という考え方は、生活や人生の質を表す概念、「クオリティ・オブ・ライフ」(QOL)にも通じると言えるでしょう。

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健康寿命の延伸とは?

現在日本では、厚生労働省を中心として、この健康寿命の延伸に取り組んでいます。健康寿命の延伸とは、健康寿命を延ばすこと、ひいては、平均寿命と健康寿命の差を縮めることを意味します。

厚労省が報告する「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部のとりまとめ」においては、2040年に向けて、誰もが健康的に活躍できる社会の実現を目指して、健康寿命を男女ともに3歳以上延伸すること、年齢にすると、健康寿命を75歳以上にすることを目標として掲げています。

しかし、厚労省はなぜ健康寿命の延伸をそれほどに重視しているのでしょうか。以下で説明するように、健康寿命の延伸は、単に社会通念上の目標としてあるばかりでなく、いま日本が直面している深刻な社会問題に対する現実的要請という側面も有しています。以下では、厚労省が健康寿命の延伸に注力する理由や背景をさらに解説していきます。

厚労省が「健康寿命の延伸」に注力する理由や背景

日本において深刻な少子高齢化が進んでいることは、ニュースなどでご存じの方も多いかと思います。2020年の総務省の調べによると、日本における65歳以上の高齢者の人口は3,617万人と、前年(3,587万人)に比べて約30万人も増加し、過去最多となっています。そして、高齢者が総人口に対して占める割合も、28.7%と過去最高で、日本人の4人に1人以上が高齢者であることが明らかになっています。(引用元:
http://www.stat.go.jp/data/topics/topi1261.html

同報告によると、高齢者の人口は今後もますます増加し、今から約20年後の2040年には、65歳以上の高齢者は3,921万人、総人口に占める割合は35.3%と、3人に1人以上が高齢者という超高齢化社会になっていることが予想されます。

少子高齢化社会は、就業人口の減少や、寝たきり老人・要介護者・重病者の増加などを招きます。こうした社会的状況は現役世代への深刻な負担増を招き、各種の社会保障制度の持続も危機に瀕しています。実際、厚生年金の支給開始年齢はこうした事情から、以前の60歳支給から65歳支給に段階的に引き上げられつつあります。

健康寿命の延伸は、こうした少子高齢化社会への対応策のひとつとして提唱されているものです。健康寿命が延びることは、健康な高齢者が増えることを意味し、それはすなわち、国庫における医療費の負担軽減や、シニア層の働き手の増加を可能にし、社会保障制度の持続可能性を高めることが期待されます。健康寿命の延伸には、高齢者のQOLの向上や、健康格差の是正といった目的が一面としてあるのも確かですが、それ以上に少子高齢化社会という危機的な社会問題が背景にあるのです。

2040年を見据えた「健康寿命延伸のための取り組み」はどんな政策?

厚生労働省は健康寿命の延伸のために、具体的にはどのような計画を立て、推し進めているのでしょうか。

先に述べたように、厚労省は、「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部のとりまとめ」において、「健康寿命の3年以上の延伸」を目標として掲げています。そのための方策としては、(1)健康無関心層へのアプローチの強化、(2)地域・保険者間の格差の解消によって、「次世代を含めたすべての人の健やかな生活習慣形成」、「疾病予防・重症化予防」、「介護予防・フレイル対策、認知症予防」の取り組みを推進することが挙げられています。

これらをさらに具体的に見ていくと、特に重視されているのは、日本人の主要な死亡原因であるがんや循環器疾患への対策に加え、糖尿病や、メタボリック・シンドロームなど、主要な生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底です。

また、こうした身体的な病気予防と共に、こころの病気の予防も同時に重視されています。これは、厚労省が定める健康寿命の指標の一つに「自分が健康であると自覚している」こと、すなわち「主観的健康感」が入っていることにも関係しています。

この主観的健康感においては、身体的に健康かどうかという視点とは別に、「自分は元気だ」と素直に言えないような「気持ちの萎え」も問題になってきます。

東京都健康長寿医療センター研究所の調査では、主観的健康感が最も悪い人たちの層と最も良い人たちの層を比べたとき、要介護の発生率は主観的健康感が悪い人の方が70倍も高くなることが報告されています。しかも、この差異は、体力を基準に見たときよりも顕著に表れているとのことです。つまり、心を健康に保つことは、健康寿命の延伸にとって、もしかしたら体力の維持以上に大きな効果を持つかもしれないことが、ここで示されているのです。(引用元:https://www.tmghig.jp/research/topics/201506/

こころの病気の予防は、自殺者対策としての側面もあり、高齢者に限らず、子供や妊婦など、次世代を担う人材を育てる・守るために必須であるとされています。

生活習慣病を始めとする病気の予防、あるいはうつ病などのこころの病気を予防するためには、普段からの食習慣、運動習慣、生活に明るい変化をもたらす社会参加などが大切です。総じて言えば厚労省は、健康寿命の長寿化のために、町ぐるみで自然と健康な生活を守れるような社会環境の整備を進めていると言えます。

企業として健康寿命の延伸を支えるには?

厚生労働省をはじめ、国や自治体は健康寿命の延伸に積極的に取り組んでいますが、民間の企業はこの動きに対して、どのような形で貢献できるでしょうか。

今後、健康寿命への関心が深まるにつれて、それにかかわる分野は多くの事業者の参入が予想されます。そこで、厚労省と経済産業省は、「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」を策定しました。そこでは主に健康寿命の延伸に寄与する新事業における「医師が出す運動又は栄養に関する指導・助言に基づき、民間事業者が運動指導又は栄養指導を行う」、また「民間事業者、医療機関、社会福祉法人、自治体等が連携して複合的な生活支援サービスを提供する」ケースについての法令解釈や留意事項が語られています。

ここにおいて注目すべきは、医療機関と自治体、民間事業者間で、患者のレセプトデータや健診データといった医療情報を連携ないしは共有することが想定されていることです。これはもちろん、「あらかじめ本人に通知」するなどの条件付きではありますが、オンプレミスな情報管理が未だ主流な医療業界に対して、ICTのさらなる積極活用を促すものでもあると解釈できます。民間業者をも巻き込んだ地域ぐるみの医療を実現するには、十全な情報セキュリティ対策も含めた、大規模な医療情報システムネットワークの構築が求められることになるでしょう。
上記のような取り組みは絵に描いた餅ではありません。実際、デンマークでは、カルテ情報も含む医療と健康に関するデータを国民のCPR番号に紐付けて一元管理しています。ここに登録された情報は、政府の医療ポータルサイト「sundhed.dk」で閲覧可能で、本人はもちろん、登録された家族なども情報を共有可能です。

さらに、医療関係者はこのポータルサイトを通じて患者の診療履歴や処方履歴を閲覧することができ、これによってデンマークの国民は、病院を変えても一貫した治療プロセスを享受できるのです。日本においても今後、医療情報のクラウド化が進んでいけば、個々の医療機関の垣根を越えたオープンな医療環境が構築できるかもしれません。

こうした医療情報の共有ネットワークの構築に限らず、医療現場ではITテクノロジーの活用可能性があふれています。たとえば、NECはすでに、健康診断や生活習慣のデータ分析などにAIを活用することを模索しています。

国ぐるみで健康長寿社会を目指す中、健康福祉の領域は、多様な事業者に対して新たなビジネスチャンスを開く可能性を備えています。

まとめ

本記事では、健康寿命の基本概念や、その延伸に向けた取り組みについて、高齢化などの社会的背景も踏まえて解説してきました。

QOLを高めるためには、心身ともに健康であることが欠かせません、そして、健康寿命の延伸のためには、医療機関の垣根を越えた新たなシステム構築が必須で、そこには大きなビジネスチャンスも眠っているのです。


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