地球温暖化による気候変動や異常気象に対する解決策の一つとして、国際的な取り組みであるGXが提唱されており、カーボンニュートラルの実現に向けて産学官が連携してこの難題に立ち向かっています。しかし、カーボンニュートラルとの違いや、GXが目指す姿と各社の取り組みについて正確に理解している方は少ないのではないでしょうか?本記事では、GXでの取り組みや各社の具体的な取り組みについて分かりやすく紹介します。
脱炭素社会に向けた経営戦略「GX」

「GX」とは Green Transformation の略語で、経済産業省が提唱する脱炭素社会に向けた取り組みを指します。GXは、カーボンニュートラルの実現のための取り組みで、地球温暖化による気候変動や異常気象の加速を抑えることが目的です。
また、カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることをいい、経済産業省はこの実現を2050年までの目標としています。GXは、持続可能な社会の実現としてSDGs(持続可能な開発目標)が国連サミットで採択されたことをきっかけに、世界でも急速に取り組みが加速しました。
さらにGXでは、カーボンニュートラルによる環境保護だけでなく、これを契機とした経済成長の両立を目指す取り組みであることが大きな特徴です。
なぜ今GXが注目されているのか?
それではなぜ今GXが注目されているのでしょうか?ここでは、GXが注目されている理由について紹介します。
地球温暖化などによる環境問題
GXが注目されている理由の一つに、地球温暖化が引き起こす環境問題に対する人々の意識が高くなっていることがあります。近年では世界各国で、洪水・干ばつ・竜巻・山火事といった異常気象や自然災害が多発しており、これらが人々の生活に与える影響は深刻です。
さらに人々の生活の安定を脅かすだけでなく、資源の損失や物流の途絶など、国家の経済成長にも著しい損失を与えています。全世界で環境問題への早期解決が求められており、経済成長のためにも、環境問題の解決に注力すべきという考え方が強くなっているのです。
国際社会のカーボンニュートラルへの転換
2017年のパリ協定でカーボンニュートラルの実現に関する長期目標が掲げられました。これを達成するため、当時の二酸化炭素排出量が1位、2位であった中国、アメリカの協力が必要不可欠な状況であったにも関わらず、当時の中国とアメリカは非協力的な姿勢をとったことが原因で施策は一時難航を極めました。
しかし、中国とアメリカが非協力的な態度をとる一方、欧州諸国はカーボンニュートラル実現に向けて積極的に取り組み技術力を高めながら世界をリードしていました。そして、欧州諸国にシェアを独占されることに危機感を覚えた中国とアメリカは態度を一変し、カーボンニュートラルの実現に積極的な姿勢を示すようになったのです。
こうして一時は難航を極めたものの、中国とアメリカの方針転換の煽りを受けて、国際社会はカーボンニュートラルの実現に向けて大きく動き出しました。
政府の重点投資分野の1つに
日本国内でも2020年10月に菅首相が所信表明演説で、2050年までのカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言しました。
さらに2022年6月には岸田首相が「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」 の中で、GXを「重点投資分野」の1つに位置付けたことで、GXは政府の重点投資分野の1つになりました。
GXを取り入れるメリット
GXを取り入れるメリットには環境保護の他に、企業側にもメリットがあります。ここでは、GXを取り入れることによる様々なメリットについて紹介します。
専門知識やスキルを持つ人材の確保
GXに取り組むことで、専門知識やスキルを持つ人材の確保が期待できます。2020年代の若者は環境問題に対する意識が高く、カーボンニュートラル実現に取り組んでいる企業に対する評価も高いです。そのため、就活生からも人気を得やすい傾向にあります。
就活生から人気になれば、優秀な専門知識やスキルを持つ人材が応募してくる可能性も高くなるため、企業は社員のレベルアップも期待できるでしょう。
企業ブランディングの向上
環境問題に真剣に取り組んでいる姿勢を示すことで、企業ブランディングの向上が期待できます。環境問題が私たちの生活や経済活動に与える影響は大きく、その環境問題の解決に注力すべきとの考え方が広がっています。
そのため、環境問題に取り組む姿勢をアピールすることで、国民から好印象を受けることができ、企業ブランディングの向上に繋がる可能性があります。
競争力の強化
GXに取り組むことで、技術面における優位性が上がり、他社を牽制できる競争力強化が期待できます。GXを成功させるためには、サプライチェーン全体を巻き込んだ取り組みが必要です。
温室効果ガスの排出量を低減させるための技術力の他に、排出された温室効果ガスを除去するカーボンネガティブの技術力の向上も期待することができます。これら技術は国境を超えた優位性になり、世界で戦える自社の強みになります。
コストの削減
自社の生産活動に必要な光熱費・燃料費を再生可能エネルギーなどに置き換えることで、コストの削減が期待できます。GXでは、温室効果ガス排出量の低減も重要ですが、温室効果ガスを排出しないという考え方も重要です。排出量の大きい化石燃料を、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーに置き換えることで、温室効果ガス排出量の大幅な削減が可能になります。
自社の生産活動に必要なエネルギーを再生可能エネルギーに置き換えることで、これまで他社から購入していたエネルギーを自社で賄えるようになり、コストの削減に繋げることが可能になるのです。
企業と産・学・官が協働する「GXリーグ」
経済産業省は2022年2月に、カーボンニュートラル実現のための具体的な取り組みに関する議論の場として「GXリーグ 」を発表しました。
GXリーグの参加者は、企業・政府・金融機関・大学といった研究機関で、産・学・官が一体となって協働してカーボンニュートラルを実現させることを目的の一つとしています。
経済社会システム全体の変革を目指す
カーボンニュートラルを実現するためには、産・学・官が一体となって連携する必要があり、私たちを取り巻く環境やライフサイクルの見直しも必要です。
そのため、現在の経済社会全体を巻き込んだ改革が必要であり、その観点からもGXリーグは「経済社会システムの変革」と位置付けられ、持続可能な社会と経済発展を両立させた世界の実現も目的の一つとしています。
参加企業に求められる3つの要件
GXへの参加企業には「自ら排出を削減するため取組み」「サプライチェーンにてカーボンニュートラルを目指した取り組み」「製品・サービスを通じた市場での取り組みの実施」が求められます。それぞれ詳しく解説します。
自ら排出を削減するため取り組み
GXに参加する企業には、自らの排出削減の取り組みが求められます。参加企業は2050年のカーボンニュートラル実現に賛同するとともに、温室効果ガス排出量の削減目標の設定と、目標達成に向けた計画の策定が必要です。さらに、中間目標として2030年での削減目標と、自社の取り組み内容の公開も求められます。
サプライチェーンにてカーボンニュートラルを目指した取り組み
自社のみならず、サプライチェーン全体でカーボンニュートラルの実現に向けて取り組むことが必要です。カーボンニュートラルは社会全体で取り組むことが重要であり、自社と自社を取り巻くステークホルダーを巻き込んだ取り組みが求められます。
例えば、部品製造時の温室効果ガス排出量の低減を求めたり、消費者にはカーボンフットプリントで環境問題に対する意識醸成を促したりして、サプライチェーン全体でカーボンニュートラルの実現に取り組むことが重要です。
製品・サービスを通じた市場での取り組みの実施
グリーン製品の積極的かつ優先的な購入により、製品・サービスを通じた市場のグリーン化を促進させる取り組みが必要です。幅広いステークホルダーとの対話を通して得た知見を積極的に経営に取り入れることと、カーボンオフセット商品を市場に積極的に投入することで、消費市場のグリーン化を図ることが重要でしょう。
GXとDXの密接な関係性とは
GXとDXには密接な関係性があり、GX実現にはDXが必要不可欠です。ここでは、DXの紹介とDXがGXに必要不可欠な理由について紹介します。
デジタル技術を軸に新たな産業を生み出すDX
「DX」とは、Digital Transformation の略語で、デジタル技術を用いて革新的な新たなビジネス創出に向けた取り組みのことを指します。紙資料のデジタル化によるペーパーレス化や、業務プロセスのデジタル化による業務効率の改善、自社リソースの一元管理による最適化 など、AI/IoT技術を含むデジタル技術は幅広い分野での応用が期待されています。
GXを実現させるにはDXが必要不可欠
一見すると直接関係がなさそうなGXとDXですが、GXの実現にはDXが必要不可欠になります。例えば、GXの取り組みの一つにデジタル化によるペーパーレス化があります。これにも、既にある紙資料をデジタル化する場合にはAI技術の一つであるOCR技術が必要不可欠です。
さらに、これからデジタル化を進めるものにおいても、決済資料であれば決済システムの構築、技術資料の保存であれば高いセキュリティを持つサーバ構築などの高度なデジタル技術が必要になります。業務プロセスの効率化、自社リソースの最適化においても同様に、デジタル技術との組み合わせが必須になり、GXとDXは切っても切り離せない密接な関係になっています。
国内企業のGXへの取り組み事例
2022年3月時点で、GXへの参加企業数は440社となっています。ここでは、これら国内のGX参加企業の具体的な取り組み事例について紹介します。
新型車両を全て電動化へ「日産自動車」
自動車業界では、温室効果ガス排出量の多いガソリン燃料から、排出量の少ない電気自動車などのエコカーへの転換が求められています。日産自動車はGXの取り組みとして、自動車のライフサイクル全体におけるカーボンニュートラルの実現を目標に掲げ、新型車両を全て電動化する計画で、2兆円規模の予算を投じることを表明しています。
環境エネルギービジョンを策定「NTT」
NTTは2020年5月に「環境エネルギービジョン」を策定し、自社の再生可能エネルギーの利用率を2030年までに30%以上に引き上げることを宣言しました。また、2021年9月には「NTT Green Innovation toward 2040」を新たに掲げ、従来の施策に加えて温室効果ガスの45%削減を目標に追加するなど、カーボンニュートラルの実現に積極的な姿勢をみせています。
再生可能エネルギーへ主力電源化「東京電力」
電力業界はエネルギーの供給元として、石炭や石油などを始めとした化石燃料に依存した発電から、クリーンエネルギーである再生可能エネルギーへ転向することが求められています。東京電力は、特に「ゼロエミッション電源の開発」と「エネルギー需要の更なる電化促進」の両輪でグループの総力をあげた取り組みを展開することを宣言しました。
海外企業のGXへの取り組み事例
次に、海外企業のGXへの取り組み事例について紹介します。
2018年自社電力を100%再生可能エネルギーへ「Apple」
Appleは他社に先立ち、データセンターなどの企業運営に必要なエネルギーを風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーで賄っている企業の一つです。さらに、自社事業だけでなく、製造サプライチェーン・製品ライフサイクル全てを通して、2030年までに気候への影響を実質ゼロ(ネット・ゼロ)にすることを目指すと宣言しています。
The Climate Pledgeを設立「Amazon」
AmazonはAppleと同様、2040年までの気候への影響を実質ゼロにすることを目的に、「The Climate Pledge」設立に調印しました。The Climate Pledge はカーボンニュートラルによる気候変動ゼロを目指す最先端組織として、IBMなどのグローバル企業とともに世界を牽引しています。
カーボンネガティブを掲げる「Microsoft」
Microsoftは温室効果ガス排出量を低減する他に、温室効果ガスを除去するカーボンネガティブの開発に取り組み、これらを組み合わせてカーボンニュートラルを実現しようとしています。カーボンネガティブに関するテクノロジーの開発や加速に向けて、2020年からの4年間で10億ドルの投資を表明しました。
まとめ
本記事では、GXが環境保護と経済成長の両立を目指した国際的な取り組みであることと、国内外を通してさまざまなグローバル企業がカーボンニュートラルの実現に向けた活動を実施していることについて、具体的に紹介しました。
パリ協定でのカーボンニュートラルの実現は2050年としていますが、計画前倒しで取り組む企業もあり、環境保護に対する意識は年々高くなっています。
しかし、重要なのはこれを他人事とは思わずに私たちにできることを日々考え、行動することです。これからの私たちの行動が、数十年後の地球の運命を握っているといっても過言ではありません。より良い環境と経済の恩恵を受けるために、これからもカーボンニュートラルについてアンテナを高く持ち行動していきましょう。
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