「ゲノム解析」とは?期待される医療への活用について

 2020.06.25  デジタルトランスフォーメーションチャンネル

生物の遺伝子情報を解析する「ゲノム解析」の技術は医学や生物工学など幅広い分野で応用され始めています。この記事ではゲノム解析の概要と、ゲノム解析によって得られるデータが今後の医療にどのように活用されていくのかを詳しく解説します。

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「ゲノム解析」とは

「ゲノム(genome)」とは、ある生物の遺伝情報全体の1セット分を表す言葉です。人間は父母それぞれから1セットずつ、合わせて2セットの遺伝情報を受け継いでいますが、その1セット分がゲノムとなります。ドイツの植物学者、ハンス・ウィンクラー氏によって1920年に編み出された概念で、gene(ジーン、遺伝子)とchromosome(クロモソーム、染色体)、またはgene(遺伝子)と-ome(オーム、ラテン語の「全体」)を合わせた造語とされています。

ゲノムに含まれる染色体の構成を研究する「ゲノム分析」の手法を確立したのが日本の植物遺伝学者、木原均氏です。木原氏はコムギの研究でいわゆる「戻し交配」を行い、コムギの基本セットは7本の染色体であることをつきとめました。木原氏はこの基本セットを「ゲノム」と呼び、「生物の生存に必要な最小限の染色体のセット」と改めて定義を行っています。

さらに、染色体が持つ遺伝子の内部構成に踏み込み、ゲノムを構成する遺伝情報を総合的に解析することが「ゲノム解析」です。

私たちの体を構成する細胞の核には染色体があり、その1本1本がDNA(デオキシリボ核酸)と呼ばれる分子で構成されています。DNAは分子が2本の鎖状にからみあった二重らせん構造となっており、分子の組み合わせの違いにより異なるタンパク質が合成されることが分かっています。このタンパク質を合成する設計図になっている部分を「遺伝子」と呼んでいます。

ゲノム解析の第一歩は、まずゲノムを構成するDNAの配列を解読することから始まります。DNAの化学構造は糖とリン酸から成る2本の鎖の間に、4種類の塩基がはしごのようにつながった形で構成されています。この塩基の配列を解析する手法が、ノーベル化学賞を受賞した英国のフレデリック・サンガー氏が1970年代に編み出した「サンガー法(ジデオキシ法)」です。この方法では改変を加えた塩基を使ってDNAを人工的に合成することで、塩基の位置を確かめて分子配列を割り出すという手順で解析が行われます。

こうした手法をもって、人間のゲノム全塩基配列解析を目指し、米国主導で30億ドル(約3300億円、1ドル=110円換算)の資金を投じて「国際ヒトゲノム計画」が進められ、始動から13年を経た2003年に全解析データが公開され話題となりました。今後は解析で得られた情報を解明して、各分野の発展につなげることに期待が寄せられています。

次世代の医療~ゲノム情報への期待~

ゲノム解析で得られる情報を応用する「ゲノム医療」への期待も高まっています。

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2000年代半ばにDNAの解読を自動化して高速読み出しを行う装置が開発され、現在ではヒトゲノム計画と同等の解析を、はるかに低額で1週間程度の短期間のうちに行うことが可能になりました。

これら新技術の登場によるコストダウンを踏まえ、遺伝的な要因と環境要因が相互に作用して発症する糖尿病や高血圧、高脂血症などについても、全ゲノム解析から得られる情報を応用した治療の実現に向け研究が進められています。

製薬の分野では、疾患と関連する遺伝子を特定し、疾患を引きおこす因子だけを標的とし、副作用を抑えた薬の開発に応用することが期待されています。また、遺伝情報を解析することで、発症前の診断や病気にかかりやすいかどうかを診断したり事前に対策を行うなど、予防医学の分野にも大きな恩恵をもたらすとみられています。

こうしたゲノム医療の研究は、世界中で重要な国家戦略の一つとして進められています。

英国では、公費負担医療の国営医療サービス(National Health Service, NHS)でゲノム医療の技術を提供することを目標として、2012年に「10万ゲノムプロジェクト」が始動しました。がん患者と希少疾患の患者など合わせて10万ゲノムの全解析を目指したもので、10万の数値目標はすでに達成され、現在では目標を500万ゲノムに上方修正して解析が続けられています。日本企業も含めた120社を超える企業がプロジェクトに参画しており、英国ゲノム産業のさらなる発展が見込まれています。

バルト3国で最も南に位置する人口300万人のリトアニアは、旧ソビエト連邦から独立した際に紙媒体に記録した情報の多くを失ったことを教訓に、全国民の医療情報の電子化を推し進めてきました。国民のカルテや処方歴などをデータベース化した「e-Health System」が政府の一括管理のもとに構築され、国内すべての医療機関に利用が義務づけられています。ゲノムのサンプル収集も早期から実施されており、医療分野のさまざまな研究に活用されています。

日本でも国を挙げてのゲノム研究が始まっています。厚生労働省は2019年12月に全ゲノム解析に関する実行計画を公表しました。この計画ではがんと難病の2つの領域で全ゲノム解析をすすめ、がんでは約13万ゲノム、難病では約3万6000ゲノムを全解析することを目標に、先行して約3.6万ゲノムの解析を、3年をめどに行うとしています。

DNAを解析し書き換える「ゲノム編集」についても研究が進められており、東大や阪大などの研究チームは、難病の筋ジストロフィー患者のiPS細胞で、原因となっている遺伝子の修復に成功したと2019年末に発表した論文で明らかにしています。

このように、全ゲノム解析による大規模なデータベースの構築で、がんや難病の治療技術が進歩することに大きな期待が寄せられています。

出典: 厚生労働省「全ゲノム解析等実行計画」

出典: 首相官邸ホームページ「諸外国におけるゲノム医療の制度・体制・運用等に関する調査報告書

ゲノム解析のがん治療への活用

ゲノム解析の技術の応用が特に期待されているのが、がん医療の分野です。がんは加齢や生活習慣などをきっかけとして細胞の遺伝子が変異して、正常な細胞ががん細胞に変化して増殖する病気ですが、がん細胞が持つ遺伝子はそれぞれ異なるため、がんの進行速度や病状も患者によって異なります。この差異ががんの診断や治療における難しさの一つでもありました。

しかし、2000年代に入り、がんの発生にかかわっているタンパク質の分子や基になる遺伝子の解明が進みました。肺がんや大腸がんなどでは「がん遺伝子検査」で原因分子や遺伝子を突き止めてこれらを標的にする薬を使うことが標準治療でできるようになっています。

また、一部のがんを対象に行われている「がんゲノム医療」では、多種類の遺伝子を同時に調べる「がん遺伝子パネル検査」で遺伝子を解析して、効果が高そうな薬物治療を選択するなど、一人一人の症状に合わせて個別化した治療が行われています。しかし、がん遺伝子パネル検査はまだ臨床試験段階の技術で、がんゲノム医療を実施している病院も限られています。今後は、がんの早期発見や患者ごとの症状に特化した治療薬や治療法がさらに進歩していくことが望まれています。

まとめ

ある生物の持つ全ての遺伝情報「ゲノム」と、ゲノム解析で得られたデータを医療分野で活用する実例について解説しました。すでに医療の各分野で応用が始まっており、特にがんの治療においては、ゲノム解析によって得られる情報を元にした早期発見の手法や有効な治療薬の開発に大きな期待が寄せられています。

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