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官公庁・自治体が抱える課題とは? 解決できるRPAの導入事例を紹介

RPAは、人間がPCで行っていた業務を代わりに実行するプログラムです。銀行や生命保険会社をはじめ、民間企業では多方面で導入が進んでいます。行政分野では導入ペースはまだ迅速とは言えませんが、スマート行政の実現に向けてこの先数年で利活用が進むと見られています。本記事では、行政分野におけるRPA利活用について紹介します。

官公庁・自治体が抱える課題とは? 解決できるRPAの導入事例を紹介

官公庁・自治体の抱える課題

官公庁や自治体では、民間の企業とは異なった業務特性があり、抱える課題も異なります。それは人口減少と高齢化という日本全体の課題と密接に関連しています。

自治体戦略2040年構想

総務省では、近い将来に人口減少や高齢化が進んでも、質の高い行政サービスを提供できる体制づくりを目指しています。その活動のひとつとして、2040年頃の自治体が抱える恐れのある課題を整理し、今後の行政のあり方や課題解決策を検討する「自治体戦略2040構想研究会」を開催、報告書を公開しています。

この報告書のなかで課題として挙げられているのが「スマート行政」への転換です。スマート行政(自治体)とは、「システムの標準化」や「AI・RPA」をはじめ「IT技術の活用・業務の電子化」など、デジタル時代に最適化した行政のあり方を指します。

こうしたスマート行政を実現するためには、破壊的技術と呼ばれるAI・RPA・ブロックチェーンなどの技術活用が不可欠です。

紙ベースの仕事が多い

官公庁や行政機関では、各種届出書や戸籍関連手続きなど、窓口で書類のやり取りを行う業務が多くあります。さらに内部事務でもワードやエクセルに記入した内容を印刷して申請・承認する業務フローが今でも多く存在します。

一見電子化が進んでいるような業務でも、「添付書類として紙帳票をスキャンした画像データが大量に存在する」など、デジタルデータ化が進んでいないものも少なくありません。

現在政府はデジタル化に力を入れており、システム化に向けて押印廃止や書面・対面の見直しなどが進んでいるものの、全体的には依然紙ベースの仕事が多い状況です。

RPA実現には、データがデジタル化されている必要があるため、上記のような情報を迅速にデジタルデータへ変換しておくことが、前提的な課題なのです。

行政サービスの質・量・幅への対応

人口減少や税収入の落ち込みなどを背景に、行政コストを抑えるため職員数は削減傾向にあります。その一方で、高齢者の増加や企業の多様化など、住民や企業に寄り添った幅広い行政サービスが求められています。さまざまな層を対象に、適切な量の行政サービスを提供することが、必要になってきているのです。

官公庁・自治体のRPA導入事例

先行してRPAの導入が進む民間企業では、紙ベースの業務が多い銀行、生命保険会社から始まり、現在ではさまざまな場面でRPAの活用が進んでいます。

一方自治体においては、現状、RPAの導入は遅れています。総務省が2018年に実施した調査によると、都道府県や政令指定都市ではRPA導入は着々と増加してきているのに対し、その他市区町村はわずかにとどまっています。

しかし、ツールベンダーの積極的な支援などもあり、2/3ほどの自治体もRPA導入を検討し、積極的に取り組んでいる状況ではあります。では実際にRPA導入により、どんなメリットが生まれるのでしょうか。ここでは既に導入を行った3自治体の事例を紹介します。

つくば市(データ入力・確認作業の自動化)

つくば市では、既に民間企業で導入が進んでいるIT技術を公共分野に導入するための共同研究を行う公共サービス共創事業 「つくばイノベーションスイッチ」を実施しています。

2018年12月~2019年3月には「RPAを活用した定型的で膨大な業務プロセスの自動化」について実証実験を実施しました。

対象として、定型作業で量が多く職員の業務負担が大きい市民税課の5業務と、市民窓口課の1業務を選定。具体的には「データを基幹系システムに登録する作業」や「法人市民税の申告書を印刷する業務」などを対象とし、NTTグループのWinActorによる業務自動化を行いました。
共同研究者であるベンダー側が操作研修を実施しつつ、情報政策課および所管部署の職員が、実際の作業をプログラム化するシナリオ策定を担当。

早い段階から所管部署にRPA導入の目的などを共有したことで、上記のようなスムーズな実現が果たされました。また繁忙期に実証実験のタイミングを合わせることで、実際の業務での効果を、職員に実感してもらえました。

結果として、対象業務で約8割の時間削減を実現。職員の業務負担を減らすだけでなく、作業時間短縮やヒューマンエラーの防止にも貢献するなど高い効果が認められました。

福岡市(RPAによる定型業務の削減)

福岡市では、2018年より継続的にRPAの導入を進めています。WinActorを使ったふるさと納税関連事務および庁内照会関係事務の自動化に関する実証実験を行いました。

具体的には、「Webサイトからのふるさと納税データ取得」「会計システムへの入力作業」「返礼品の支払事務」「庁内からの照会事務におけるメール送受信」などの作業をRPAで自動化。年間想定で合計約21.6人日分の事務軽減効果が見込めました。

業務効率および生産性向上に効果が見られたことから、2019年度より本格導入を開始。同年AI-OCRも導入するなどアナログデータのデジタル化と組み合わせた高度なRPA活用まで実施に至りました。2020年度以降も、業務効率化や生産性向上に役立つとして継続的なRPA活用を見込んで取り組みを進めています。

奈良市(庁内業務効率化)

奈良市では2018年にUiPathを導入し実証実験を実施。会計業務や書類作成業務を自動化、業務によっては約80%の時間短縮を実現したものもありました。

さらに2020年4月、新型コロナウイルス感染症対策のひとつとして実施された国民健康保険料の減免措置に関しても、従来手作業で行っていた業務をRPAで自動化し、月間40時間近い業務時間を削減しています。

官公庁・自治体のRPA導入の課題

官公庁や自治体がRPAを導入する場合、どのような課題があるのでしょうか。導入に際しての課題を5つ紹介します。

セキュリティ要件が厳しい

官公庁や自治体では個人情報を多く扱っているという特性上、非常にセキュリティが厳しくなっています。強固なセキュリティはもちろん重要ですが、RPA運用の障害となる側面もあります。

例えばシナリオを実行するPCでも、管理者と利用者ではアクセス権限の違いがあります。RPAでは、ローカルファイルへの書き込みができなくなるなど、シナリオ実行に支障が出る恐れが生じます。

そのほか、ファイルの暗号化を義務づけるルールも、RPA活用に対しては妨げとなる可能性もあります。

職員の関心が低い

業務の自動化について、当事者である現場職員の関心が低い場合があります。2019年に日経BPコンサルティングが実施した調査では、政府・官公庁・団体の担当者がRPA導入をためらう理由は、「必要性を感じない」がもっとも多く、25.3%でした。

予算確保が難しい

ツールの導入、運用における予算確保も課題となります。多くの自治体では予算が不足傾向にあり、新規システムの追加が難しい状況にあるためです。

解決策のひとつとして、補助金の利用が有効でしょう。総務省では、「情報通信技術利活用事業費補助金(地域IoT実装・共同利用推進事業)」を募集しています。これを利用すると、事業費の1/2の補助が受けられる可能性があります。

RPA単体では対象外ですが、AI-OCRを組み込んだRPAであれば対象になります。2020年には埼玉県志木市で「AI-OCRとRPAを組み合わせた業務改善」が採択されているため、補助金を利用した導入も検討の余地があるでしょう。

業務が標準化されていない

RPAのシナリオを作成するためには業務を標準化する必要があります。行政関連の業務は煩雑なものが多く、マニュアル化されていない業務、イレギュラー対応が多い業務、担当者ごとに手順が異なり標準化されていない業務、などさまざまです。RPA導入を検討する際には、事前に業務の棚卸しを済ませ、バラツキがある業務を標準化しておく必要があります。

人材不足

「RPAを推進・実行する人材が不足していること」も解決すべき課題のひとつです。対策としては、定期研修によって、ツールを操作できる職員数を増やすことが挙げられるでしょう。またリーダー人員も育成し、シナリオ設計や、ほかの職員をサポートする体制を整えることも不可欠です。なお、RPAでは所管課の職員がシナリオを実行・調整する場合も多く、計画的な人材育成が必要になります。

それ以外にも、RPAが円滑に実行できるように、各部門をまたいだ体制づくりも重要です。部門間で密な情報共有を行うために、省庁横断型のプロジェクトチームを立ち上げることも求められるでしょう。こうした点では、民間企業とは異なる課題が浮上するでしょう。

まとめ

予算や運用難易度の問題で、RPA導入を躊躇する自治体も少なくありません。しかし近年では、ツールベンダーの手厚いサポート、補助金による国の支援などによって、導入ハードルは低下傾向にあります。

RPA導入により、業務のデジタル化、業務フローの効率化が目指せます。環境が整ってきた今日は、RPAに取り組む最適な時期でしょう。

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