小売業IT活用事例:花王はどのような分析を行なっているのか?コト消費時代への対応方法

 2019.11.22  デジタルトランスフォーメーションチャンネル

生活用品で知られる花王は、「未来のコト消費」を予測するため、商品販売に関わる分析基盤をオンプレミスからクラウドに移行しました。自社データのみならず社外のデータをも取り込み、より消費者にマッチした売り場を作ろうとしている花王の取り組みは一つの事例として参考になります。

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花王株式会社について

花王は1887年に創業され、今では日用品の分野を中心に、多くの人に親しまれている国内のトップメーカーです。

これまでの歩み

かつて、手に入る石鹸が、高価な輸入ものか品質の低い国産しかなかった時代、安価で質の良い石鹸を作りたいという思いが創業に繋がったと伝えられています。そしてその頃、化粧石鹸のことを「顔洗い」と呼んでいたことから、発売した石鹸が「カオ石鹸」と名付けられ、そこに「花王」という漢字を当てたことが、社名の由来になりました。当時からマーケティングセンスに長けていたと言えるでしょう。

以来、化粧品、スキンケア、ヘアケア、ヘルスケア、ホームケアなど、人の生活や健康に大きく関わる分野で事業展開。ビオレ、アタック、メリットなど、誰もが知っているような商品をたくさん手がけているのはご存知の通りです。さらに法人向けのケミカル事業でも、産業界の発展に貢献する機能材料製品や環境負荷を軽くする製品の開発など、幅広い活躍を見せています。

企業理念「花王ウェイ」

そんな花王の企業理念は「花王ウェイ」。世界の人が豊かな生活を送ること、そしてそうした社会が長く持続するよう、役立つ存在であることを企業ミッションとしています。さらに2017年からはより暮らしやすい社会を実現するため、環境を重視したESGにも取り組んでいます。

自ら変わり、そして変化を先導する企業へ

しかしここ近年、デジタル技術の進展やニーズの細分化、これまで以上の環境意識の高まりなど、外部の環境変化が大きくなっています。そうした変化に対応するため、花王では中長期の計画も推進しています。そこで立てられたのが、「自ら変わり、そして変化を先導する企業へ」というスローガンです。「花王ウェイ」に基づくこのスローガンのもと、2025年にはグローバルSAPシステムを標準化、2030年には「グローバルで存在感のある企業となる」ことを経営目標にしています。

 

花王が抱えていた課題

IT技術を通して市場への対応を進めようとしている花王ですが、そこにはいくつかの課題もありました。

データ分析の限界

花王では取引のある各チェーンストアと連携し、POSの販売データや顧客の属性を加えたID-POSをもとに、売り場の設計やプロモーションに活用してきました。しかしこれらのデータは過去のものであり、集計、分析してから売り場に反映されるまでには時間差が生じてしまいます。売り場は生モノであり、顧客の購買行動や売れ筋商品は、その日の天気や時間によっても変化します。むしろ必要なのは未来に対する予測です。しかも「モノ余り」の時代の中で、消費者の行動は「コト消費」に向かっています。そのインサイトを測らなくては正しい対応ができません。

そこで必要になってくるのが、TwitterなどのSNSや、ネットに投稿されたユーザーの書き込み、キャリアデータを使った実際の行動状況など、自社やチェーンストアのネットワークの外で起きている情報です。これらのデータからどのような「コト消費」が生まれるのかを予測し、売り場作りに落とし込んでいかねばなりません。

オンプレミスの限界

花王はこれまで、オンプレミスでKCT(Kao Collaboration Tools)と呼ばれるシステムを構築し、長らくデータ分析の基盤として運用してきました。その規模は巨大化しており、2019年の時点で200億レコードを超えるデータ量となっています。しかしデータ分析の方向を過去から未来のコト消費にシフトさせるためには、従来のKCTでは性能面で限界がありました。
またKCTの更新は5年周期で行われてきました。仮に今頑張って目の前の課題に対応させても次の更新が5年後では、その間の外部環境の変化に後れを取ります。だからと言って更新を早めると、経費がかさんでしまうでしょう。

(参照元:https://news.mynavi.jp/kikaku/azure_case_td-74/

ERP等のクラウド化

花王ではまた、各国のグループ会社にSAPのERPを導入するプロジェクトを立て、2000年からアジア、欧米、日本国内という流れで順次実行。そして2015年にはその導入プロセスが終了し、現在はその運用を定着させるフェイズに移っています。さらにそれと前後して、2014年からはERPのクラウド化もスタートさせています。

システムのクラウド化は、基幹業務を担うERPに留まりません。CRM、IoTやAIなどの先端的な分野でも個々に導入が進んでおり、クラウドの利用が広がっています。2018年にはAIなどの先端技術を経営などに応用する「先端技術戦略室」が創設され、社内各部署の優秀な人材のアイデアを支援する体制もできています。

このように社内で広がる、柔軟でスピード感あふれる動きに後れを取らないためにも、商品販売のバックボーンであるKCTに大きな刷新が求められたのです。

クラウド化への取り組み

花王の課題は、社内の各所でクラウド化やスピード化が進んで行く中、商品販売を支えるKCTが後れを取りかねない状況に陥ったこと。さらに「未来のコト消費」を予測するには外部のデータが不可欠にもかかわらず、現状のKCTでは機能や性能が足りないことにありました。そこでクラウドへの乗り換えが本格的に検討されました。

保守期間を待たずクラウドへ

実は、クラウドへの乗り換えを決めた時、オンプレミスで運用されてきたKCT(データ分析基盤)は、その保守期間が1年以上残っていました。常識的に考えれば期間を満了してから新しい環境に移る方が、コストが無駄にならず有利です。しかし取り巻く状況変化のあまりの大きさに、その1年を待たずに、KCTをクラウド化させることになりました。

クラウド化が強く推進された理由には、大きく3つの要素があります。まず、そもそもTwitterなどのソーシャルデータを読み込んで大規模な分析活動を行うためには、高い性能が必要です。しかも時間が経つにつれて、データ量が大きくなっていく可能性があります。そうしたスケーラビリティへの対応は、オンプレミスよりクラウドが得意とするものです。

次に、社内の各所でクラウドが実用的な環境であると認知されてきたことがあります。小規模なものを導入してリスク評価を行うだけでなく、根幹を支えるERPもクラウド化されたことにより、導入を阻む理由はなくなりました。

最後にクラウド自体の技術の進化も無視できません。実は前回の更新時にも、クラウドへの移行が検討されていました。しかしその時は安全性の面で疑問があり、まだその時期ではないと却下されていたのです。それから数年、今ではクラウドもオンプレミスに引けを取らない信頼性を持つに至ったと評価されました。

Microsoft Azureの選択

クラウドへの移行にあたり選択肢に上がったのが、Microsoft Azureです。今や市場には、把握できないほど多くのパブリッククラウドがあふれています。その中でAzureが選ばれたポイントは何でしょうか。それは、自社のITエンジニアにとっての扱いやすさです。

花王では競合に対して差別化を図る必要のある分野について、そこに関わるITの企画開発や運用を社内の人材が受け持つ伝統がありました。そのため、彼らが手慣れている技術を使わないと、環境の初期構築に時間がかかってしまうのです。

それまでのKCTは独自のデータベースが使われていたため、社内のエンジニアが扱いにくく、性能を引き出すのに多大な労力が割かれていました。しかしAzureではデータベースに一般的なSQL(Azure SQL Data Warehouse)が使われているので、初期構築だけでなく、運用中の改修や機能追加も社内でストレスなく行えるという判断がされました。

Power BIとの連携

次に検討されたのが、利便性の高さです。いくら正確な記録や分析ができても、結果を迅速に受け取れなくては意味がありません。以前のKCTでは、書類を出力しようとした時、その都度計算作業が入るため、いちいち時間がかかってしまうという欠点がありました。しかも出力の形式が帳票だったため、意味のあるレポートにするにはそこからさらに手間を加える必要があり、大きく効率を落とす原因となっていました。

一時は別途にBIツールを使ってダッシュボード形式でレポートが見られるか、社内で試したこともあったそうです。しかしやはり独自のデータベースを制御しきれず、最終的には断念せざるを得ない結果になったということです。

クラウド化にあたっては、当然ながらこの点も大きな評価項目になりました。結果として、AzureとPower BIを組み合わせれば、従来よりも運用が扱いやすくなると判断。同じ会社のサービスということもあり、Power BIはAzure SQL Data Warehouseと円滑に連携でき、社内のエンジニアが持っているSQL Serverなどのスキルも活かせることが大きなポイントになりました。

IT活用で得たメリット:顧客の未来が描ける

こうしたクラウドベースのIT活用によって、花王が新たに得られたメリットを見て行きましょう。

扱いやすいダッシュボード

評価の際の決め手になったように、強力なダッシュボード機能を得られたことは、花王にとっての大きなメリットと言えるでしょう。ユーザーはダッシュボードから直観的に要素を選択することで、自分が欲しい情報に即座にアクセスできます。
またダッシュボードの作成においては、実際にこのシステムを使う社内の各部門にヒアリングを実施。彼らの要望を取り入れながら要件を詰めていきました。そのためユーザーの満足度も高く、社内の担当者とチェーンストアの担当者がダッシュボードを一緒に見ながら打ち合わせすることもできるようになりました。

環境のスケールに不安がない

POSだけでなく外部データも扱うようになると、それに伴い処理の規模も大きくなります。AIなどの先端技術も、進展に応じて取り入れて行くことになるでしょう。花王ではKCTを移行させた当初は、6,000 cDWUでの運用を行うことにしましたが、その時点ですでにAzure SQL Data Warehouseでは最大30,000 cDWUのプランまで用意がされていたので安心です。
処理環境を途中で増やすことは、オンプレミスでは相応のコストや手間、リスクなどが生じるものですが、クラウド環境であれば、その点非常に、優位になります。将来におけるスケールがリスクにならないというのも、大きなメリットです。

(参照元:https://news.mynavi.jp/kikaku/azure_case_td-74/

売り場の未来が描ける

顧客志向の多様化や、モノ余り、機能の飽和などを受け、「良いものを作れば売れるという時代は終わった」と言われます。商品が「良い」のはもはや当たり前の話であり、顧客が求めるものは、さらなる体験価値、モノよりコトの消費なのです。そうしなければ「欲しいものがない」と言われてしまいます。

今回のKCTの刷新により「未来のコト消費」が予想され、それが消費者に提供されることが期待されます。テレビなどのマス広告での画一的なマーケティングではなく、顧客を似たような傾向を持つ一定の規模で分類、そこにマッチした店舗売り場の設計や、販売プロモーションを行えるようになるでしょう。例えばAIによって最適な棚割りを「コトの消費」視点から導くことが考えられます。そのような売り場の未来を、チェーンストア各社と共に描けることが最大のメリットとも言えるでしょう。

導入製品とサービス

今回、花王が導入したクラウドサービスは、大きく分けて「Azure SQL Data Warehouse」「Azure Active Directory Premium」「Power BI Premium」の3つです。
Azure SQL Data Warehouseは、ペタバイト単位のデータに対する複雑な処理も短時間で処理できる強力なエンタープライズ・データ・ウェアハウスです。SNS投稿などのビッグデータも効率的に分析できます。分析結果を他のレポートやアプリケーションに移動させることも簡単です。

Power BI Premiumは、大規模なデータセットから有効なレポートを出力するのに役立ちます。データが分かりやすく視覚化され、自分の欲しい情報を欲しいスタイルで受け取ることができます。

Azure Active Directoryは、利用者のID情報やセキュリティ保護を担う統合型のプラットフォームです。もともと社内のクライアント/サーバ型のシステムで使われるActive Directoryのクラウド版で、Azureなどを利用するためには認証システムとして不可欠なものになります。

まとめ

これまでのような画一的なマーケティングや売場戦略では「コト消費時代」に対応することはできません。生活用品を中心とした事業展開で消費者に近い所にいる花王は、そうした危機感を持ってデータ分析に取り組んでいます。変わり続ける社会の中で生き残るためにはどうしたら良いのか。そのヒントがここにあると言えるでしょう。

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