日本の製造業における労働生産性の現状と向上のためのポイント

 2020.01.20  デジタルトランスフォーメーションチャンネル

人手不足が叫ばれる中、過剰な労働を見直し働きやすい社会を目指す「働き方改革関連法案」が2019年4月から順次施行され、製造業でも業務効率の改善と労働生産性の向上は喫緊の課題となっています。今回は労働生産性を高めるための取り組みと、注目すべきポイントや今後の課題を詳しく解説します。

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ものづくり産業は日本の経済を支える重要な産業分野

高度経済成長期の躍進を経て、日本の経済を今日まで支えてきたのは「ものづくり産業」、いわゆる製造業であることに異論はないでしょう。製造業が国内総生産(名目GDP)に占める割合は1989年の26.5%からは減少し、2009年時点では19.1%までにダウンしましたが、その後2017年時点で20.7%まで回復し、今なおGDPの2割弱を占め日本経済を支えています。

また、製造業が伸びることで日本全体の生産量が増加して、社会全体の雇用にも良い影響を与える効果が高いことが分かっています。
各業種で最終的な需要が1単位増加した場合に、その業種全体で増える生産量を表す「生産波及効果」は、日本の全産業平均では1.92倍ですが、製造業のうち鉄鋼が全業種トップの2.79倍で、製造業の各部門全てが非製造業を上回っています。
また、各産業で最終需要が10億円増加した場合に、あらゆる他業種も含めて間接的に生まれる雇用量を表す「雇用誘発効果」では、製造業は「輸送機械」の65.2人を筆頭に、最も少ない非鉄金属でも40.4人で、非製造業でトップの情報通信業の38.6人を上回っています。このように、製造業が日本の経済に与える影響は非常に大きく、重要な基幹産業として引き続き国内の経済や雇用を支えているのです。

参照: 経済産業省、厚生労働省、文部科学省「2019年版 ものづくり白書 概要」、経済産業省「ものづくり白書(2016年版)


日本の製造業における労働生産性の現状

産業活動における「生産性」とは、資源や労働力などの投入量に対してどれだけ付加価値が生み出せたかを表す概念です。製造業では、工場などの設備や労働力など生産活動に投入した資源に対し、製品をどの程度生み出すことができるかという指標で、設備や土地、労働力を効率的に活用することができれば生産性が向上することになります。

生産性には「資本生産性」と「労働生産性」の観点があります。「資本生産性」は原料や工場設備などの資本投下に対して産出された量を示したもので、設備の稼働率を上げることで生産性を上げることができます。
これに対して投入した労働量に対して生み出された成果を測る目安が「労働生産性」です。労働者1人当たりの成果、または労働時間当たりの成果を数値として表しますが、近年はより短い時間で効率的に仕事を行うことが重視されるため「1時間当たりの労働生産性」が指標として利用されています。

しかし、日本の労働生産性の水準は諸外国に比べて高いとは言えず、この点が大きな課題になっています。公益財団法人日本生産性本部が公表した「労働生産性の国際比較 2019」によると、OECDが発表したデータに基づく2018年の労働1時間当たりの価値は46.8ドル(約5148円)で、74.7ドル(約8217円)の米国に比べると6割程度に留まっています。また日本の労働生産性はOECD平均の56.1ドル(6171円)よりも低く加盟36か国中では21位、主要先進7か国では最下位が続いています。この格差を縮小し、よりよい労働環境を創り上げるためにも、短い労働時間で業務を遂行するための意識改革や、業務の効率化を進めることが求められているのです。

参照:日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2019

労働生産性を高めるための取り組み

労働生産性を高めるための試みも様々な企業で進められています。生産性を高めるために有効な手段として挙げられるのがIT技術の活用です。特に、データの集計や分析などの分野ではIT関連のサービスを利用して自動化することで、必要な人的資源を減らすことが可能になります。

製造業におけるMixed Realityの活用

最も基本的なITツールの電子メールや表計算などのオフィスソフト利用はもちろん、経理システムや財務会計管理、勤怠管理システムなどの導入で業務の簡素化、省力化が期待できます。
また、労働生産性を高めるためには従業員一人一人のモチベーションの維持も重要です。大企業になればなるほど一人一人の従業員が企業や業務の全体像を把握することが難しくなります。しかし、事業の全体像を把握しないままで一部の作業に携わる状態が続くと、従業員も業務に対する積極的な関心が持ちにくく、新しいスキルを習得するなどの意欲が生まれづらくなります。ですから、日々の実務に必要な情報に加えて、企業の目指している理念や目標、そのための具体的な手段や短期目標などの情報共有をこまめに行っていくことで従業員のモチベーション向上を図り、生産性の向上に繋げる狙いがあります。

もちろん、生産性向上のためには適切な人材を適切な場所に配置する人事の工夫も必要です。得意分野や職場の人間関係によってパフォーマンスに大きな差が出ることもしばしばあります。適切な人材配置を行うためには、従業員一人一人の性格や得意不得意を把握しておくことが必須ですし、個人の業務目標の設定や、個人のスキルアップ、キャリアアップのサポートを行うことも生産性を上げるために大きな効果があります。従業員に対し定期的な面談やアンケートなどを行い、意向を汲み取る機会を設けるのも大切です。

人材の育成・開発への取り組み

「残業を減らす」という観点で労働生産性を高めようとするなら、今までと同じ業務量を短時間で行う、あるいは同じ時間で今まで以上の成果を出せるようにならなければなりません。そのためには各従業員のスキルアップを図ることが必要です。


業務に必要な技術の習得では、日常業務を通して上司や先輩が指導する「OJT」が基本的な手順です。そのOJTの場で基本的な業務から難しい業務へと体系的に経験してもらえるような配慮を行ったり、幅広い視点を身につけるために主な担当業務以外の関連業務も経験してもらったりするような工夫が効果的です。

また、これからの人材に求められるのは、業務に必要な専門知識やノウハウを取得した上で、仕事の段取りや進め方を効率的に構成していく「プロジェクトマネジメント」の姿勢です。労働生産性を著しく下げる要因の一つは「処理できない量の仕事を一人で抱え込む」ことです。ですから、業務の優先順位と自分の能力で処理可能なことを総合的に判断して、周囲に頼むことと自分で処理することを適切に切り分けて業務課題を完成させる力を高めると、労働生産性を上げることができます。もちろん、単なる工程管理や時間管理に留まらず、業務の目的や重要度、緊急性を加味して仕事やプライベートも含めて行動の優先順位をつける自分自身の「タイムマネジメント」ができる技術を学ぶことが重要です。

これからの製造業では、技術面などの実践的訓練を体系的に行い、競争力のある生産活動を担える人材を育成することがますます欠かせないものとなるでしょう。

人材の確保・定着への取り組み

高い労働生産性を維持するためには人材を確保した上で、育成した優秀な人材の定着に取り組むことも欠かせない要素です。独立行政法人労働政策研究・研修機構(JLPT)が2017年に実施した「ものづくり産業における労働生産性向上にむけた人材確保、定着、育成等に関する調査」では、自社の労働生産性が高いと考えている企業はそうでない企業に比べて人材の定着率が高いことがわかりました。実際に効果のあった人材確保や人材育成・能力開発にかかる施策の具体的な内容としては「正社員の採用の強化」が 50.2%で最も多く、次いで「改善提案や小集団活動・QCサークルの奨励」の29.5%、「技能伝承のための取り組み」が25.1%となっています。

つまり、従業員の生活基盤を安定させ、積極的に育成に取り組むことが、人材の定着に繋がり長期的な生産性の向上に結びつきやすいと考えられます。

参照: 労働政策研究・研修機構「ものづくり産業における労働生産性向上に向けた人材確保、定着、育成等に関する調査結果」p1
https://www.jil.go.jp/press/documents/20160519.pdf

 

労働生産性を高める上での今後の課題

製造業で労働生産性を高めるために取り組むべき課題としては、IT技術を業務に組み込んで活用を進めることが真っ先に挙げられます。IT技術の最大のメリットは、生産に必要な設備や労働力を大きく減らせる可能性があることです。生産ラインに関するデータの入力、集計、分析などはIT技術導入が特に効果を発揮する分野です。従来は生産ライン管理システム等を導入するにはハードウェアの調達や回線敷設と保守運用に高額の費用がかかりましたが、近年のクラウドサービスの普及により、より少ない費用でこれらのシステムを導入し利用することが可能になっています。

文字や画像、ビデオ画像などを使った進行管理ツールや連絡ツールも次々と登場しており、意思疎通や連絡事項のきめ細かい伝達ができるようになっています。

このようなツールを十二分に活用し、自動化できる部分は自動化を進めていくことで、労働力を補い生産性を向上させることに繋がります。労働力が集約している業務についてIT系サービス利用で省力化できるものがないかを検討し、積極的に自動化を進めましょう。

また、情報の共有と可視化も大事です。会社の規模が大きくなるほど、個々の従業員が自分の業務しか見えず、会社全体の実態を把握しづらくなります。そのような状況では、自分の業務に意義を見いだしづらく、積極的に取り組む姿勢や学習意欲を引き出すことは難しくなります。会社が大きな流れの中で何を目指しているのか、そのために何をすべきかなどの情報共有を行い、参加している一員であるという知識を持たせることがモチベーションを高め、生産性の向上に繋がるのです。こういった情報の共有と“見える化”にも連絡ツールなどのIT技術が大きく役立ちます。

慢性的な人手不足が叫ばれる中、新たな人材の採用も難易度が高くなりつつあります。人材や労働力もまた限られた資源であることを踏まえ、人材を投入するにあたって、生産性を考慮して要所要所に優秀な人材を投入することが全体の利益増加に繋がるのです。

まとめ

労働生産性の向上は「働き方改革」の大きな柱でもあり、限られた人的リソースを活用する取り組みは既に始まっています。特に製造業では生産性の向上が生産量増加に直結します。IT技術の活用などで作業を効率化し、労働力に対し最大の成果をもたらす仕組みをつくり上げ、競争力の向上を図りましょう。

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