MaaSは地方都市に何をもたらすのか

 2020.08.21  デジタルトランスフォーメーションチャンネル

MaaSは、交通環境の利便性を劇的に向上させてくれる概念やサービスです。都市部はもちろんのこと、交通手段が不足している地方都市でも熱い注目を集めています。この記事では、MaaSとは何か解説すると共に、MaaSが地方都市にもたらす影響について解説しています。

MaaSは地方都市に何をもたらすのか

MaaS(Mobility as a Service)とは何か?

MaaS(Mobility as a Service)とは、マイカーを除く全ての交通手段(電車・バス・タクシー・レンタカー・シェアサイクル)をシームレスにまとめ、一つのプラットフォームから予約、決済、利用までを完結できるようにするサービスや概念を指しています。

MaaSという概念は、2014年頃にフィンランドで生まれました。フィンランドの首都ヘルシンキでは、MaaSによって域内の自家用車の利用を2025年までにゼロにするロードマップを掲げており、2016年には、さまざまな公共交通機関をワンストップで利用できるアプリ「Whim」がスタートしています。Whimの普及によって公共交通機関の利便性が向上し、利用者が増加したり、都市部の渋滞が軽減されたりといった効果が出ているようです。

過疎地で注目される地方版MaaSとは?

一方、過疎化が進んだ地方都市での交通手段が減少している日本において、今注目されているのが「地方版MaaS」です。

地方都市では、人口減少と車社会の普及によって電車やバスの路線廃止が増加しており、マイカーを持っていない人や、車を運転できない高齢者や若者にとっての交通利便性が低下しています。そこで電車やバスなどの公共交通機関だけでなく、タクシーやデマンドバスなども含めたあらゆる交通手段をより利用しやすい形で提供し、住民が必要最低限の移動手段を確保できるようにするとともに、交通事業者の収益性の向上を目指すのが地方版MaaSの在り方です。 

今なぜMaaSが注目されているか

MaaSが注目されている理由はいくつかあります。

まず、MaaSがマイカーのデメリットを解消してくれることが挙げられます。いつでも自由に使えるマイカーは便利である反面、マイカーの利用者が増えれば渋滞や事故が起きやすくなったり、排気ガスの増加によって環境に悪影響を及ぼしたりするという問題があります。

一方でマイカーの利用者が減少すれば、これらのデメリットを解消できるだけでなく、その分の駐車スペースを削減できるようにもなります。特に土地が少ない都市部などでは、より効率的な空間利用の可能性が期待されています。 

また、通信回線の整備やスマートフォンの普及が進み、オンライン経由で提供されるMaaSを利用しやすい環境が整ったことや、車や自転車のシェアリングサービスといったマイカー以外の交通手段が普及しはじめたことも、MaaSの注目度を高める理由となっています。

MaaSは地方都市に何をもたらすのか?

ここまではMaaSによってマイカー以外の交通手段の利便性が高まることを解説しました。それでは、MaaSが普及することにより、地方都市にとって具体的にどんなメリットが考えられるでしょうか。一つずつみていきましょう。

高齢者の外出促進

過疎化や少子化が進む地方都市では、マイカー以外の交通手段が乏しい上、75歳以上の高齢者の免許返納が増えており、高齢者にとってはますます移動手段を確保しづらい状況になっています。この状況は買い物難民になる高齢者を増やすだけでなく、買い物以外の問題も生じさせることになります。例えば、高齢者が外出できず家にこもるようになれば、心身の健康維持が困難になり、医療費や介護費の負担が増える可能性があります。そうなれば国や自治体にとってもデメリットが大きくなるでしょう。  

その点、MaaSが地方に根付けば、マイカーを持たない高齢者も移動に困らなくなります。高齢者の健康が保たれるようになれば、医療費や介護費の負担が少なくなるといったメリットもあります。

地域循環型の経済効果

交通手段が貧弱な地方では、マイカーがなければ遠方へ出かける機会が減少し、それに伴って地域の商店や商業施設の利用者も少なくなるため、街の賑わい低下に繋がります。また、買い物に出かける代わりにネット通販で必要品の調達を済ませる人が増えれば、地域からお金が流出する傾向が強くなります。  

一方、MaaSによって様々な交通手段が使いやすくなることで外出もしやすくなり、住民が地域の商業施設へ赴く機会も増えます。そうなれば公共交通機関の収益性も向上するため、地域内でお金が循環しやすくなるわけです。

インバウンド観光需要における地方創生

日本の観光地に訪れる外国人にとって、主な交通手段は電車、バス、タクシーといった公共交通機関です。しかしながら、目的地に到着するまでに複数の交通機関を利用する場合、それぞれの乗車手段や時刻表、料金などを逐一調べなくてはならず、外国人にとって決して利用しやすいとは言えません。

特に交通手段が少ない地方の観光地においては、その傾向は顕著です。MaaSによって公共交通機関が外国人にとっても利用しやすくなれば、より多くの訪日外国人を呼び込むことができ、インバウンド消費によって地方の観光地の活性化も期待できるようになります。

MaaSの導入を積極的に取り組む自治体の事例

MaaSは地方の課題解決のためにも期待されています。ここでは地方において、どのようにMaaSの導入が進んでいるか、その動向をいくつかの事例でみていきます。

群馬県前橋市|乗り継ぎ経路を一括検索できるアプリの導入

群馬県前橋市では、マイカーの利用割合が高く、高齢者が運転免許証を保有している割合や高齢ドライバーによる事故の増加が問題となっていました。その一方で路線バスの運行本数は少なく、乗り継ぎの利便性も低いなど、公共交通機関のネットワークが十分ではありませんでした。

そこで自動運転バスの実証実験やデマンドバスの配車効率化を図ると共に、路線バスや鉄道、タクシーといった既存の交通交通をシームレス化するためのMaaSアプリを試験的に導入しています。このアプリでは、地域内の交通機関の経路をワンストップで検索したり、乗車予約したりすることが可能です。今後はショッピングモールや商業施設で使えるクーポンの提供も検討しており、MaaSによる地域経済活性を目指しています。

島根県太田市|定額タクシーの導入

島根県太田市では過疎化が進み、交通インフラの衰退が深刻な問題となっています。市の全域において路線バスが運行していない地域も点在しており、鉄道や路線バスの本数も十分とは言えません。

そこで、定額制のオンデマンド型乗合タクシー「井田いきいきタクシー」とMaaSアプリを組み合わせた事業をスタートさせています。井田いきいきタクシーは月額3,300円で乗り放題となり、地区内をはじめ、町中心部にあるJRの駅やスーパーなどに行くことができます。タクシーの乗車予約や決済はアプリで行えるようにし、鉄道やバスとの乗り継ぎをAIで分析して最適な運行経路を割り出す仕組みも取り入れています。

京都府京丹後市|QRコードによる即時決済

京都府京丹後市もまた、交通インフラの不足が問題となっている地域です。地域内には公共交通機関の空白地帯も少なくありません。さらにマイカーを持たない高齢者の孤立や、移動に関する情報(経路・乗車方法・料金など)の不足という問題を抱えています。

そこで2020年2月から約2ヶ月、独自のMaaSアプリによって公共交通機関の利便性を高める実証実験を実施しました。具体的には、チケットを事前に購入しなくてもQRコードをかざすだけで区間運賃を決済できるようにしたり、あらかじめ購入したチケットの購入情報をQRコードで認証したりできるものです。なお、区間運賃に対応したQRコードによる決済は日本初の試みです。さらにこのアプリの導入により、指定の鉄道やバス、一部の海上交通がシームレスに即時決済できるようになりました。

静岡県伊豆地域|観光地の周遊できる環境整備

静岡県の伊豆地域は、豊富な観光資源がある一方、路線バスの本数やタクシーの台数が少なく、主要な鉄道駅から観光地へのアクセスが不便な状況です。その結果、観光客の8割がマイカーを利用するなど、道路が渋滞する原因にもなっていました。  

そこで、公共交通機関の利便性を高めることを目的としたMaaSアプリ「Izuko」が開発されました。Izukoでは、東伊豆と中伊豆において一定区間の鉄道とバスが乗り放題となる「デジタルフリーパス」が購入できるほか、鉄道や路線バスの予約・決済、オンデマンド交通・レンタサイクル・レンタカーの予約、観光施設の入場券購入なども可能です。アプリ一つで周遊の利便性を高められることから、地域の活性化が期待されています。

MaaS事業を推進する企業事例

世界には最初に紹介したフィンランドのWhimのほかにも、MaaSを採用した事業を展開している民間企業があります。ここでは、その主な事例をいくつか紹介します。

Uber(ウーバー)【アメリカ】

Uberは、マイカー保有者と自動車で移動したいユーザーをマッチングさせる配車アプリです。ユーザーはUberを使うことにより、一般人のマイカーをタクシー代わりに利用でき、一方のマイカー保有者は空いた時間を活用して収入を得ることができます。Uberは今後、配車アプリの展開だけでなく、いろいろな交通手段を利用して人の移動や物流を効率化できるよう開発を進めています。

Qixxit(キクシット)【ドイツ】

Qixxit は、ドイツ鉄道が2013年に発表した交通手段の検索・予約・決済ができるMaaSアプリです。飛行機や長距離バスにも対応しており、国境をまたぐような長距離移動にも利用できます。

Mobike(モバイク)【中国】

Mobikeは中国の企業が開発した自転車のシェアリングサービスです。街に停車されている自転車にスマートフォンをかざしてQRコードをスキャンするだけで自電車をレンタルでき、利用後は最寄りの駐輪スペースに自転車を停めてロックすれば返却が完了します。

現在では中国にとどまらず、イギリス、イタリア、シンガポール、さらには日本の札幌、大磯でも導入が開始されています。

地方においてMaaSの成功の鍵となるのは?

ここまで紹介してきたように、地方でMaaSを採用するケースが増えていますが、その成功の鍵となるのは、ユーザーの利便性をいかに高められるかという点や、サービスを持続的に運営できるかどうかです。これに加え、地方自治体や政府と連携し、資金面や制度面での支援を行っていくことも今後の課題となるでしょう。

まとめ

MaaSは、マイカーを除くあらゆる交通手段をシームレスにまとめ、一つのサービスとして使えるようにする概念です。過疎化が進み交通手段が不足する地方都市において、MaaSは交通の利便性を向上するとともに、地域の活性化も期待できる手段として注目されています。今後もMaaSのさらなる発展から目が離せません。


事例:ノルウェー地下鉄が車両稼働率を向上
3分でわかるSmartDB

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