質量分析とは?質量分析計の原理を理解

 2020.12.28  デジタルトランスフォーメーションチャンネル

「質量分析」は従来、有機化学者が主に研究で用いる限定的な分析法でした。しかし現在は、誰もが取り扱える質量分析計の登場により、さまざまなライフサイエンスで利用されています。質量分析は医療や製薬分野において、創薬や薬物試験に欠かせないものです。

当記事では質量分析の概要をはじめ、質量分析計の原理や種類、イオン化法などを解説します。

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質量分析(MS)とは

「質量分析」は「Mass spectrometry」を略し、「MS」とも呼ばれます。物質は原子や分子、クラスターなどの粒子、原子が電気を帯びたイオンなどで構成されています。

質量分析とは、その物質を各種イオン化法で微細化し、異なる質量電荷比(m/z)によって分離・検出する手法です。検出により物質が何であるかを特定し、その量を測れます。イオン状態にして測定するため、高感度な分析ができます。

ちなみに「質量」は「重量」とは異なります。重量は重さを計量し、重力に影響を受けるものです。質量は、どんな環境でも変化しない物質そのものの量を測定します。重量の単位はN(ニュートン)で、質量の単はkg(キログラム)やt(トン)などです。

質量分析計とは?原理について解説

質量分析を実際に行うのが「質量分析計」で、物質を気体状のイオンにする「イオン源」、生成したイオンをm/zで分離する分析機能、分離したイオンを検出する検出機能の装置をそれぞれ備えています。イオンはm/zでエネルギーが異なるという性質を利用し、分析器で分離が可能です。

一部のイオン化法を除き、これらの装置は一般的に高度の真空状態を維持しています。生成したイオンを浮遊する分子にぶつけることなく、安定して検出器に集めるためです。

試料となる物質を運ぶキャリアガス(不活性ガス)にはヘリウムや水素、窒素などがありますが、ヘリウムは世界的に不足している状態です。水素は可燃性ゆえ危険性が高く、窒素は安定領域が狭いというデメリットがあります。純度が低いヘリウムでもフィルタを用いて使用できます。

質量分析計で用いられるアナライザーの種類

イオンをm/zごとに分離する方法によって、質量分析計のアナライザー(分析器)の種類が分かれます。以下では、その中でも代表的な種類を取り上げて解説します。

二重収束型(磁場型)

イオンの移動方向を磁力によって収束させる単収束型(磁場型)では、m/zが同じであれば、途中で多少方向のバラつきがあっても、磁場を通過することで方向を収束させられるため、検出に支障はありません。

しかし異なるm/zのイオンの場合は支障が出ます。磁場を通る際に質量が軽いイオンほど大きく曲がり、逆に重いイオンはあまり曲がり試料全体へ広がってしまうのです。そのため、分離する精度が低くなってしまいます。

「二重収束型(磁場型)」は、この課題に対応するため、磁場と静電場を組み合わせたものです。m/zで異なるイオンエネルギーの違いを静電場により補正します。イオンの方向とエネルギーを同時に収束させられるため、検出器に集めやすく、分離する精度を高められるのが特徴です。

四重極型

質量分析計でもっとも普及している種類が「四重極型」です。イオン源と検出器を結ぶ中心線から等距離で並行に並べた4本の電極に、直流と高周波(交流)の電圧を加えます。直流電圧と高周波電圧の比率を保って増減させると、それに当てはまるm/zを持つイオンが通過するので、質量が同様のイオンだけを検出できる「マスフィルタ」と言えます。

イオンの質量が小さいと、電圧が低い状態でも通過しますが、質量が大きいと電圧を高くする必要があります。イオンの分離構造がシンプルで、真空度が低くても分離したイオンを安定して検出器に集められるのがメリットです。ガスクロマトグラフ(GC)や液体クロマトグラフ(LC)など、多くの化学物質分析機器に使われています。

イオントラップ型

イオンをフィルタで分離せず、3次元空間に一旦閉じ込めるのが「イオントラップ型」です。2つの電極間に高周波電圧の空間を形成し、その領域にイオンを留める仕組みです。電極に加える高周波電圧を変化させると、一杯になったイオンから質量が異なるイオンだけを検出できます。

ただし、有限の3次元空間であるため、分離できるイオンの容量範囲はあまりありません。イオンを閉じ込める3次元空間の容積が、分離装置の対応範囲を決めます。

飛行時間型

イオンに一定電圧を与えて加速させ、飛行時間を測定することでイオンを検出するのが「飛行時間型」です。電場や磁場を用いないため、分離の基礎理論はもっとも単純です。

一定の電圧でイオンを加速すると、イオンのm/zが小さく軽いと飛行速度が速くなり、比率が大きく重いと飛行速度が遅くなります。イオン源と検出器間の距離は同じなので、電圧を変えずに飛行時間を測定すれば、m/zの比率ごとにイオン検出が可能です。

同じm/zのイオンでも初速度にバラつきがある場合は、二重収束型を取り入れます。静電場を通過させることで、初速度の小さいイオンは内回り、大きいイオンは遠回りの軌道を取り、初速後の違いを補正できるので、分離能力を高めることが可能です。

イオン化法の種類

質量分析は先述した通り、生成した気体状のイオンを測定する手法のため、イオン化法に特性が現われます。イオン化法には多くの種類があり、今後も新しい方法が考案されるでしょう。ここでは現在、有機化合物の質量分析で代表的な3つのイオン化法について解説します。

電子イオン化(EI)

「電子イオン化(EI)」は、有機化合物の質量分析で一般的なイオン化法です。フィラメントから所定の電圧を加え、サンプル分子に電子線を衝突させて、分子から電子を取り去りイオン化します。分子の結合エネルギーより大きな加速エネルギーを衝突させることで断片化するため、「ハードなイオン化」ともいいます。

断片化の様式は有機化合物ごとに異なるため、断片化したイオンの予測や判定が可能です。イオンの質量分布をグラフ化したマススペクトルのデータも得られます。ただし、ほかの化合物が共存していると、スペクトルパターンは変わります。EIは試料を直接導入する方法と、ガスクロマトグラフと質量分析を直結させる間接的な導入方法があり、ガスクロマトグラフに適しています。

エレクトロススプレーイオン化(ESI)

「エレクトロスプレーイオン化(ESI)」は、液体の有機化合物を試料とするイオン化法で、液体クロマトグラフと組み合わせることが多いです。「電荷残留モデル」と「イオン蒸発モデル」があり、前者では溶媒液の滴が蒸発し、電荷の正負が同じであれば反発するクーロン斥力(せきりょく)を利用することで、対象分子イオンを生じさせます。

一方、後者は溶媒が蒸発し、一定サイズ以下の滴になると、イオンがエネルギー障壁を超えて蒸発するため、対象分子イオンが生じる仕組みです。ESIは分解して断片化せずにイオン化できるため、「ソフトなイオン化」といいます。ただし、EIと同じくほかの化合物が共存していると、イオン化が変化します。

マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)

「マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)」は、ESIと並ぶソフトイオン化法です。紫外レーザー光を吸収し、イオン化率の高い物質を溶媒として、測定対象の試料と混合します。紫外レーザーをこれに照射すると、熱エネルギーにより試料が気化し、気体中でプロトン(陽子)授受が行われ、イオン化される仕組みです。

タンパク質や糖類など高分子量の生体物質のイオン化を実現し、医学や生物学などの分野で利用が進んでいます。細かく点滅を繰り返すパルスレーザーで照射するため、「飛行時間型」の質量分析計と相性がよいとされます。細かいスポット照射もできるので、スポットデータを集めた質量分析が可能です。

まとめ

質量分析は医療や製薬、化学薬品などの研究開発分野で欠かせません。質量分析計は、アナライザーの種類により四重極型や二重収束型、イオントラップ型、飛行時間型などがあります。有機化合物のイオン化法はEIやESI、MALDIが代表的です。GCやLCなどの分離法や、アナライザーの種類によって、相性のよいイオン化法が異なります。

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