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事業再編とは? 代表的な5つの手法やメリット、手続きの流れを解説

事業再編は、企業の事業を成長させるために実施する事業再構築手法のひとつです。市場の変化が激しい現在では、企業が限られた経営資源を最適化し、強化するための方法として事業再編を選ぶケースが増えています。本記事では、事業再編について詳しく解説します。

事業再編とは? 代表的な5つの手法やメリット、手続きの流れを解説

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事業再編とは

事業再編とは、事業や企業の体制・構成を変えて、企業の基礎部分を編成し直すことです。経済産業省、中小企業庁の「事業再構築補助金制度」の「事業再構築指針」によると、事業再編とは、会社法上の組織再編行為で再編した新しい事業形態において、「新分野展開」「事業転換」「業種転換又は業態転換」のいずれかを行うことです。

現在では、中小企業の事業再編の必要性が注目され、事業再編促進のための法令や事業再編税制なども定められています。例えば、中小企業の経営資源や雇用体系・技術を引き継ぐための「経営資源引き継ぎ補助金・事業再編支援事業」が代表的です。2022年3月に認定を受けた株式会社プリンスホテル、東洋観光事業株式会社の事例のように、事業再編計画の認定を受けた企業は、「設備投資減税(中小企業経営強化税制)」、「準備金の積立(中小企業事業再編投資損失準備金)」などの税制措置が受けられます。

これからの日本企業の事業再編を促すため、事業再編の必要性や現状などを調査・研究し、具体的な方策や実務指針などを取りまとめる「事業再編研究会」も設置されています。

事業再編と組織再編の違い

事業再編と組織再編は、厳密には違う意味を持っています。ただし、よく似た言葉でもあるため、全く同じ意味で用いられるケースもあるため注意が必要です。組織再編とは、会社法によって定義されている言葉で、「合併」「分割」「株式移転」「株式交換」「事業譲渡」などを通じて企業の組織を編成し直すことです。対して事業再編とは、「事業再構築補助金制度」において「事業再構築指針」に用いられている言葉でもあり、「事業再構築要件」を満たしながら会社法上の組織再編を実行することを指します。

事業再編で期待できる効果

事業再編では、業績の回復・向上、企業経営の効率化などの効果が期待できます。

業績の回復・向上

変化が激しい現代において、企業が利益を維持・向上するためには、時には事業再編により業務、事業を見直し、業績を改善することが求められます。事業再編では、事業計画を策定して「新分野展開」「事業転換」「業種転換」「業態転換」などの施策に取り組みます。

「新分野展開」では新製品の開発等により、既存の業界だけでなく今後成長が見込まれる業界を市場開拓し、進出します。「事業転換」は、既存の主な業種の変更はせず、市場動向に基づき同業種内の業績が好調な事業に進出し、新しい製品・サービスを製造・販売して新事業の売上比率を伸ばす施策です。

また、将来的に成長が望める市場に参入して新しい製品・サービスを取り扱い、主な業種をこれまでとは異なる新規参入した業種に変更する方法が「業種転換」です。さらに「業態転換」では、オンラインサービスの活用やAIの導入など、これまでとは異なる新たな方法で製品等を製造・提供します。企業の経営資源を効果的に活用し、資源利用を最適化して新たな市場に参入することで、これまで低迷していた業績の回復や向上につなげられます。

企業経営の効率化

企業の業績悪化が進んでいる状態など、利益を出しにくい状況でも、事業計画を策定し事業再編すると、自社の経営資源が有効に使えるようになる場合があります。組織の再編で用いられる手法は、合併、分割、株式交換などです。

業績が悪化している場合、現状を分析して要因を特定し、利益向上のためにコスト削減や事業体制の再構築を実行します。人員、経費を削減するコスト削減を断行したり、「人・モノ・金・情報」の4つの経営資源を必要な部門に割り振ったり、ITシステムを導入したりすることなどで、経営の効率化が可能です。

複数の部門を抱える企業では、部門ごとに営業活動が行われているため、企業全体で見た場合に人材などの経営資源が偏っているケースがあります。組織の再編により、部門内だけでなく企業全体で経営資源の最適化ができることから、事業計画で策定された大規模な施策の実施が可能です。経営利益の向上につながる効率化が期待できます。

【手法別】事業再編のメリット・デメリット

事業再編には、主に「合併」「分割」「株式移転」「株式交換」「事業譲渡」の5つの手法があります。それぞれメリットやデメリットが異なるため、事業再編する場合には、自社に適した手法を選ぶことが大切です。

合併

合併とは、複数の会社を統合してひとつの会社にすることです。合併には、吸収合併と新設合併の2種類の手法があります。吸収合併では存続する1社を残してほかの会社が吸収され消滅します。また、新設合併は新しい会社を設立して既存の会社を新会社に吸収させ消滅させる手法です。新設合併では、新設会社が事業に必要な認可などを全て取得し直さなければならないため、手続きなどの問題から吸収合併が行われるケースがほとんどです。

会社をひとつにまとめるため、合併前各社の関係性を高められる、統合の効果が早い時期に出る、などのメリットがあります。株式による合併の場合は、買い手企業の資金調達が不要です。吸収合併では残った会社の権利義務を継承できるため、手続きが簡略化できます。

ただし、合併では複数会社のシステムや従業員の配置など、統合作業を迅速に行わなければなりません。このため、従業員の負担が大きいというデメリットがあります。ほかにも、株式譲渡など、ほかの事業再建よりも各種手続きが煩雑となりやすい点に注意が必要です。

分割

会社分割とは、会社が経営している事業のうちいくつかの事業をほかの会社に譲り渡す手法です。会社分割には「吸収分割」と「新設分割」の2種類の方法があり、「吸収分割」では既存の会社から既存の会社に事業の売却が行われます。新設分割は、既存の会社から新設した会社に事業を引き継ぐ手法です。事業を譲り受けた企業は売却企業に対価を支払います。

事業譲渡と似ている手法ですが、事業譲渡は事業のほかに資産、負債なども譲渡するため事業契約などの移転手続きが必要です。会社分割は事業部を譲り渡したあとも残った事業とともに会社が存続します。社内で採算が取れていない事業を手放したい場合や、新事業を独立した体制で行いたい場合などに適しています。

会社分割では、買い手側の企業が対価に新株を発行するだけでも良いため、買収資金が必要ありません。契約関係はそのまま継続されるため、手続きが比較的簡単です。事業を引き継ぐことにより、すぐに新規事業を始められる点もメリットのひとつです。
ただし、買い手企業の株価が下落するリスクがある、売り手企業に負債や債務がある場合には負債も引き継ぐことになる、株主総会の特別決議が必要である、などのデメリットもあります。

株式移転

株式移転は、ひとつまたは複数の既存の会社に新しく親会社を作り、既存会社の株式を全て移転する手法です。グループ企業をまとめたいときなどに行われます。新しく設立した会社は既存の会社から株式を譲り受けるため、株主は新しい会社の株主になります。

株式移転では株式買収の資金が不要で、既存会社の株主3分の2以上の賛成が得られれば既存の会社は完全子会社化が可能です。これにより、子会社が存続したまま段階的に経営統合ができるなどのメリットがあります。

株式が移転するため、株主が保有する新しい株式の割合が変化する問題があり、株主総会で承認を得たり、債権者保護手続きなどの手続きを進めたりすることに数ヶ月もの期間がかかる場合もある点がデメリットです。

株式交換

株式交換は、売り手企業の全株式を買い手企業が自社株式と交換して売り手企業を子会社化する手法です。グループ企業の会社を完全子会社化する場合や、グループ企業の株主構成を単純化したい場合などに行われます。

株主総会の特別決議で承認を受けられれば良いため、合意の得られない少数株主への対応が不要、株式を対価にすると買収の資金が不要、売り手企業が存続するため統合に時間をかけられるメリットがあります。
デメリットとして、新株発行時に買い手企業の株式増加による株価下落のリスクがある、買い手企業の株主構成が変わる、といった点が挙げられます。

事業譲渡

事業資産を金銭で譲渡するM&A手法が事業譲渡です。事業譲渡では法人格の移動はなく、事業の一部・全部を譲渡します。事業に関係する建物や在庫、社員、顧客などさまざまな資産を譲渡するため、全ての契約や権利関係を変更する手続きの関係上、選ばれにくい手法です。

事業譲渡では事業売却後にも法人格を残せるため、残った法人格で別の事業を行うことが可能です。収益性のある事業だけを事業譲渡で売却できるため、買い手企業は必要な事業だけ買い取りできるというメリットがあります。
事業譲渡は全ての資産・権利などを移動することから、債権者の同意が必要なだけでなく、不動産賃貸契約などの諸契約を結び直さなければならないといった点がデメリットです。

事業再編の流れ

事業再編する場合、最初に「合併」「分割」「株式移転」「株式交換」などの手法から実施する手法を選び戦略を決定します。そして契約を結ぶために交渉を進めていきます。具体的な手順は一般的に以下のようになります。

  1. 事業再編の手法を決定
  2. 対象企業を選定し、交渉
  3. M&Aの契約が締結するまで内容を公表しない約束として、秘密保持契約を締結した上で、買収価格や各種条件を決定
  4. 基本合意書の締結や、デューデリジェンス(売り手企業の調査)を実施
  5. 調査結果確認後、最終合意前に細部の条件交渉を実施
  6. 最終契約書を締結し、クロージング

その後は、官報公告などで関係者に事業再編の実施を通知し、株主総会、債権者保護などを進めます。さらに、契約書のM&A効力発生日に登記や事後開示書面を提示するなど、各種手続きを完了させます。

まとめ

事業再編とは、事業の体制などを変えて企業活動を再編成することです。現在では、主に中小企業の生産性向上を目的とし、経営資源を最適化する事業再編が推進されています。さまざまな業界をITシステムでサポートできるMicrosoft製品により、事業再編に必要な業務も効率的に進められます。

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