医療・製薬

PHR(パーソナルヘルスレコード)とは?概要やメリット、課題や今後の展望を解説

様々な業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が行われており、業務改革等を図るために重要なことと捉えられています。そしてこれは医療現場においても同様です。医療の場においては特に「PHR」が注目されています。PHRは、医療現場で働く人以外にも関わってくるものですので、本記事でその概要やメリットなどを解説していきます。

PHR(パーソナルヘルスレコード)とは?概要やメリット、課題や今後の展望を解説

先端技術とAI倫理がもたらす「より良い医療のかたち」

PHR(パーソナルヘルスレコード)とは

PHRとはパーソナルヘルスレコード(Personal Health Record)のことです。厳密な定義はありませんが、要は個人の健康や身体の情報を記録した医療データを意味します。
生涯型電子カルテともいわれるように、個人の身体的情報を一元的に集約し、その情報を用いて将来的な健康増進から生活習慣の改善までを実現するために利用されます。

たとえば病院でどのような診察を受けたのか、薬局でどの薬を出されたのか、現状どういった健康状態なのか、受けている介護の状態の詳細などがすべてデータとして残されます。

従来は、これら多くの医療情報が個々の病院や薬局等で別々に保管・運用されていました。妊娠から出産、育児の過程においては母子手帳を用意しますし、お薬手帳や疾病管理手帳、介護予防手帳、かかりつけ連携手帳など他にも色々あります。

これらに記録される情報をすべてデジタル化させ、医療機関がより効果的な医療を施せるようにすることは当然大切です。

しかし、PHRにおいては患者側が自由にアクセスできることも重要とされています。そこで、PHRプラットフォーム事業が推進されることとなりました。IoTも活用することで、そもそもの情報量を増やすとともに、質も向上させ、より最適かつ効率化したサービスの提供を目指すのです。

PHRがもたらすメリット

PHRでは、多種多様な情報の一元的管理を目指します。そうすることで、たとえば災害や救急時における処置においても過去の既往歴やアレルギー情報などが素早く参照できますし、転出入があったときでもこれまでの診療情報を把握した状態で診察してもらえます。

これまで連携の取れていなかったデータも総合的に判断材料として用いられるようになり、脈拍・体温・血圧といったバイタルデータもPHRとして統合できます。結果として各人に最適な健康増進プログラム・予防プログラムが提供できるようになると期待されています。

保険会社も、個人の健康状態に合わせた細かい保険料の設定、サービス提供ができるようになるでしょう。さらには、蓄積されたデータを研究機関等が分析することで、今後の医療発展に役立てることもできるのです。そのため、PHRはさまざまな方面において多くのメリットをもたらすものと考えられています。

こうしたメリットを享受するためには準備しなくてはならないことも多々あります。総務省が研究を進めるPHRモデルによると、まずは個々が自分のライフステージに合わせたアプリケーションを取得するところから始めます。関係団体や組織からアプリが配布され、自治体からは母子手帳アプリや介護防止アプリ、学校健診アプリなどが配られ、保険者からは健康管理アプリや生活習慣病手帳アプリ、医療機関や介護施設等のデータにより構成されるEHRからはかかりつけ連携手帳アプリ、といった具合に配布されます。なおEHRとは電子健康記録を意味します。

こうしたアプリを使ってデータをPHR事業者に送信することで、個人の医療情報・健康情報等が多数集められるとともに時系列で管理することも可能となります。
さらに、近年はAI技術も発展しているため、各種データを用いた、より高度な解析の実現も期待されています。多くデータが集まっても、処理しきれなければ意味がありませんので、有効活用するためにもAIは欠かせません。

AIが介入すると膨大なデータでも高速に、そして正確に処理を行えますし、一つ一つの分析も人間が実際に頭で考えたかのように判断できるよう発展してきています。
将来的には人が手作業で分析していたのでは見つけることのできなかった疾患等も、AIによる高度な分析によって早期発見できるようになるかもしれません。

PHRが必要とされる理由や背景

前述の通り、さまざまな健康情報・医療情報は、ばらばらに保管されていましたし、それらを横断して健康状態等を判断できるシステムが構築されていませんでした。その結果、医薬品の二重投与が発生してしまったり、別の病院に通うたびに何度も同じ診察・検査を受けなければならなかったりもします。

セカンドオピニオンが推奨される一方で、重複する作業が弊害となって最適な医療を施せていないという現状もありますし、そのことは患者だけでなく現場で働く従事者の負担を増やすことにもなってしまっています。そこで、PHRがより注目されるようになり、現在では、これが必要であるといわれるようになっているのです。

なお、PHRが重要視されるようになった背景には、上記のような患者への医療最適化・医療現場の業務改革といった事情だけが関係しているわけではありません。本質的には上2点が最も大きな要因といえますが、最近言及される機会が増えたということに関しては、技術力の向上とそれに伴う政府の積極的な推進も関係しています。

例えばスマートフォンやその他デジタル機器を身に付け、日常生活を過ごす人も多くなりました。要は、情報を簡単に集められる環境が整いつつあるということです。情報はインターネットを介して送信できるため、各端末の記憶装置に依存する必要もありませんし、情報を発信するだけでなく管理性も過去に比べてはるかに向上しています。

技術的な課題をクリアできるようになってきたこともあり、政府もPHRについて具体的な稼働開始時期を提示しています。それによると、特定健診や薬剤情報などは「マイナポータル」というマイナンバーを活用したWebサービスを通じて提供することとされ、予防や健康づくりへの取り組みが促進されることに期待が寄せられています。こうした流れを受け、厚労省も本格実施に向けた検討を始めています。

また、現場の効率性向上などとも関係しますが、DXの観点からもPHRが必要であるといわれています。そもそも医療に限定した話ではなく、経済全体においてDXの加速が求められており、企業の利益率の向上やコスト削減、生産性向上、運用時間の短縮などのために大きな役割を果たすと認識されています。

逆にDXの実現が進まなければ市場の変化に対応できず競争に負けてしまい、結果として多大な経済損失が生じてしまうのです。そのため政府もDXを推進していますし、その一端を担うPHRにも注力しているのです。

PHRの推進における課題や懸念点

ここまでPHRを推進することの利点に着目して紹介してきましたが、これを推進する上で懸念点がないわけではありません。クリアしなければならない課題もいくつかあります。

代表的なのはセキュリティ上の問題です。インターネットを介して情報のやり取りを行うため、通信がセキュアでなくてはなりません。しかも漏洩してしまった場合のリスクが大きいです。万全な状態でPHRを活用しなくてはなりませんし、万が一漏洩してしまった場合も想定して迅速な事後対応ができるよう体制を整えておかなくてはなりません。

また、システムとしてのセキュリティレベルが高かったとしても、一人ひとりのセキュリティに対する意識が低いと、自ら情報漏洩に加担してしまうおそれもあります。そのため、各人がその仕組みをよく理解しておくということも大切です。

体制が完全に整っていない状態でむやみにデータを集めるのは危険を伴います。厚労省も情報開示の範囲等を問題視しており、集めるデータの限定が必要ではないかという点について議論しています。他にも、各人のデジタル機器に対する理解不足や、紙からデジタルへ移行する際にかかるコスト上の課題などもあるでしょう。移行期だからこその課題も多くありますが、少しずつこれらの問題を解消して、PHRを進めていかなくてはなりません。

PHRの事例に見る今後の展望

最後に、現段階で取り組まれているPHRの事例や、今後どのように発展・普及していくのか、展望について言及します。

現状取り組まれているものとしては、「ICTを用いた糖尿病対策」や「総合健康支援サービス」などがその一例として挙げられます。

前者については、自宅や外来、入院時など患者の場所を問わず血糖管理してそのデータを送り、血糖値の一元管理を実施しています。単に管理性が向上するだけでなく、患者自身も自分の行動を共有することで意識付けがなされ、行動変容の加速が起こったと報告されています。データにより自身の体の状況が見える化され、健康意識の向上にも役立っているのです。

総合健康支援サービスにおいても同様の現象が起こっています。こちらは官民連携で母子手帳の電子化・健康の見える化など健康支援を実施し、モニターの多くが紙媒体のときよりも参照頻度が増加したと回答しています。9割ほどのモニターが健康管理も意識するようになるなど、副次的なメリットも生じています。

このように、PHRにはセルフマネジメントの意味合いも含まれるため、今後さらに実用化が進むことで医療機関を利用せずに健康維持が実現されるのではないかとも考えられています。自身の意識の高まりに加え、何か異常を感じたときでもこれまでに蓄積されたデータを元に最適なアドバイスを受けられるようになるでしょう。

患者は身体的な悩みを早期解決できるようになりますし、医療機関側も費用を削減できたり、従業員の負担を軽減したりすることが期待されます。

また、今後は医療情報に関する主権が患者に移るのではないかともいわれています。現状は医者が開示しないと情報にアクセスできず、医者主導の医療が行われています。
しかし、今よりも自分自身で適切な健康管理がしやすく環境が整うことで、医療情報の管理が患者主権へと移行した場合、医療の在り方も変わってくる可能性もあるのです。

まとめ

PHRはDXの推進とも関連が強く、ICT技術との連携を行うことで今後さらに発展していくとみられています。

セキュリティ上の課題などもありますが、適切にシステムを整備した上で活用すれば数多くの恩恵が受けられます。政府も積極的に取り組んでおり、近い将来、医療の在り方も変わってくるかもしれません。

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