小売業者が知っておきたい働き方改革関連法案について

 2019.11.28  デジタルトランスフォーメーションチャンネル

2019年4月より順次施行されている「働き方改革関連法」が各界から注目されています。特に、労働力への依存度が高い「労働集約型産業」である小売業界にもたらす影響は大きいといわれています。そこで今回は、この法案が施行される前と後の違い、施行スケジュール、そして小売業者が知っておくべきポイントをご紹介します。

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小売業界にも影響が大きい「働き方改革」とは

「働き方改革」とは、日本人の労働環境を大幅に見直すための取り組みです。日本の労働力人口(生産年齢人口)は減少傾向で、このままでは日本の生産力および国力の低下は免れません。こうした状況を打開するために、政府は国をあげた取り組みをスタートさせました。

働き方改革を進める上でまず必要となるのが、労働基準法をはじめとする労働関係法の改正です。そこで登場したのが「働き方改革関連法案」です。働き方改革関連法案とは、長時間労働の是正や多様な働き方の実現を目指す改正法案の通称であり、全部で8本の法律で構成されています。本法律は2018年6月29日に可決・成立し、2019年4月1日より順次施行されています。この法律の柱となるのは次の3つです。

  1. 長時間労働の是正
  2. 正社員と非正社員(パート、アルバイト等)の格差改善
  3. 多様で柔軟な働き方の実現

小売業にとっては、特に1と2が大きな課題です。営業時間を延長する店舗が増えたことにより、長時間労働が常態化している企業は少なくありません。また店舗従業員の半数近くが非正規社員であるにもかかわらず、正社員と非正社員の待遇には大きな格差があるのが現状です。労働環境を改善することは、従業員にとっても企業にとっても大きなメリットがあります。働き方改革関連法案の施行に合わせて、自社の業務や体制を積極的に見直していきましょう。

働き方改革関連法の施行スケジュール

働き方改革関連法は、法律ごとに施行のタイミングが異なります。現段階では以下のようなスケジュールで施行される予定です。

2019年(平成31年4月)

2019年4月より、次の7つが導入されます。

1.残業時間の上限の規制

これまでにも「月45時間、年間360時間」までという行政指導はありましたが、法律では残業時間の上限が定められていませんでした。2019年4月以降はこれが法律に「格上げ」され、原則としてこの上限を超えることができなくなります。繁忙期など特別な事情がある場合でも、単月で100時間、複数月で平均80時間以内、年間で720時間未満という上限が設けられました。このうち、単月と複数月は休日労働を含む時間です。

休日労働を含めて違反した企業は、6ヶ月以下の懲役または30万以下の罰金が科せられます。なお、中小企業に対しては2020年4月より適用されます。

2.年次有給休暇取得の義務化

年10日以上の有給休暇が発生する従業員に対して、企業側は必ず年5日以上の有給休暇を取得させなければなりません。休暇の時季は、従業員の希望を踏まえて指定します。違反した場合は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

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3.高度プロフェッショナル制度の創設

高度プロフェッショナル制度とは、高度な専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で年収1075万円以上の従業員を対象として、本人が希望すれば労働時間規制や割増賃金支払の対象から外す仕組みです。これにより、働く時間ではなく成果に応じて報酬を受けることができるようになります。対象となる高度専門職とは、金融商品の開発やディーリング、アナリスト、コンサルタント、研究開発業務などです。なお、本制度の導入には法律に定められた企業内手続きが必要となります。

4.フレックスタイム制の拡充

フレックスタイム制の労働時間の清算期間が、1ヶ月から3ヶ月に延長されます。これまでは、「1ヶ月の清算期間の中で労働時間が超過した場合に割増賃金を払う」、「実労働時間が決められた総労働時間に満たない場合は控除や欠勤の対象になる」という計算方法でした。2019年4月以降は、この清算期間の上限が3ヶ月に延長されます。3ヵ月の中で労働時間を調整できるようになるため、より柔軟な働き方が実現します。

5.勤務間インターバル制度の導入(努力義務)

1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保する仕組みです。残業で遅い時間に退社しても睡眠時間や自分の自由時間を十分に確保できるため、ワークライフバランスの向上に繋がります。国はこの制度を企業への努力義務として規定しています。

6.従業員の労働時間把握の義務化

これまでも、厚生労働省のガイドラインによって、従業員の労働時間を把握することが求められていました。しかし、管理監督者など裁量労働制の従業員は対象外とされていたのです。今回の法改正により、原則としてすべての従業員の労働時間を把握することが義務付けられました。管理監督者であるからといって長時間労働が正当化されるのではなく、従業員全体の労働時間を適正化する必要があります。

7.産業医・産業保健機能の強化

企業から産業医への情報提供や、産業医等による従業員の健康相談等が強化されます。企業側は、従業員が産業医等へ健康相談を行う体制を整備しましょう。また、従業員の健康情報の収集、保管、使用及び適正な管理について指針を定め、従業員が健康診断や健康相談を受けやすいようにする規定も含まれています。

2020年(令和2年4月)

2020年4月より次の原則が適用予定です。

同一労働・同一賃金の推進

大企業に対して、同一企業内で正社員と非正社員の不合理な待遇差を解消するための規定が整備されます。基本給や賞与などあらゆる待遇において、両者の間に不合理な格差を設けることが禁止されます。なお、中小企業に対しては2021年4月より適用される予定です。

2021年(令和3年4月)

同一労働・同一賃金の推進について、中小企業に対しては2021年4月より適用されます。

2023年(令和5年4月)

2023年4月からは、中小企業の割増賃金率が25%から50%に引き上げられます。2010年の労働基準法の改正により、月に60時間を超える時間外労働については50%以上の割増率を加えて割増賃金を払うことが義務付けられていましたが、中小企業には猶予措置が取られていました。2023年4月以降はこれが廃止されるため、中小企業は時間外労働削減に向けた対策をとる必要があります。

小売業界は「働き方改革」でどう変わる?

働き方改革の実施により、労働集約型産業である小売業界はどのように変わっていくのでしょうか。特に積極的な対策を講じるべき内容は次の3つです。

時間外労働の上限規制

従業員に1日8時間、1週40時間を超える残業をさせるためには、36協定を締結し、労働基準監督署に届出をする必要があります。2019年4月1日より、これを破った場合は労働基準法の罰則が適用されることになります。

時間外労働の上限は、原則として「月45時間、年360時間」です。繁忙期などの場合でも、「年720時間」「複数月平均80時間(休日労働含む)」「月100時間未満(休日労働含む)」が適用されます。従業員の健康を害することのないよう、企業はすべての従業員に対する安全に配慮する義務があります。

「小売業は長時間労働が当たり前」などと開き直ってはいけません。労働時間の実態把握、営業時間の見直し、業務効率化など、長時間労働を是正するための取り組みを検討しましょう。小売業にとっては特に難しい課題となりますが、これが成功すれば求職者へのアピールポイントともなります。採用競争に打ち勝つ鍵となるでしょう。

月60時間超の割増賃金率引き上げ

月60時間を超える残業の割増賃金率の引き上げは、大企業については既に適用されています。中小企業については、2023年4月から義務化される予定です。これにより時間外労働の割増賃金の負担が増え、コストの面で残業が見合わなくなる可能性もあります。時間外労働の必要が生じた場合は事前の許可制にするといった対策が必要です。

年5日以上の年次有給休暇の取得義務化

2019年4月1日より、年10日以上の年次有給休暇が付与される従業員に対して、年に最低5日消化することが義務化されました。これまでの場合、有給休暇は原則として従業員本人の申し出によって取得されるものでした。しかし職場環境によっては、なかなか自分から休暇を取りたいと言い出せない場合もありました。

厚生労働省が発表した「平成30年就労条件総合調査の概況」によると、「卸売業、小売業」の有給休暇取得率は、「宿泊業、飲食サービス業」に次いでワースト2位という結果でした。小売業界にとって、有給休暇の取得義務化は大きな課題です。また今回の改正では、正社員だけでなく「正社員と同じ程度に働くフルタイムの非正規雇用労働者」も制度の対象となります。たとえ正社員と比べて所定労働時間が短いパートやアルバイトであっても、所定労働日数や時間数に応じて年次有給休暇を比例付与する必要があります。所定労働時間と勤続年数によっては年10日以上の年次有給休暇が付与されるため、年5日取得義務化に際しては注意が必要です。

同一労働・同一賃金の推進

大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月より、正社員と非正社員の不合理な待遇差をなくすことが求められます。どのような待遇差が不合理であるかは、「同一労働同一賃金ガイドライン」に記載されています。

まずは自社内で両従業員の間にどのような格差があるのかを確認しましょう。職務内容や待遇の面での差異を整理し、自社の現状をガイドラインと照らし合わせて対策を検討します。本法律の施行までに現状を把握し、待遇差の検討および就業規則等の整備が必要です。経営者や人事労務担当者は改善事例なども含めて適宜情報を集めておきましょう。

まとめ

働き方改革は、深刻な人手不足に悩む小売業にとって特に重要な課題といえます。対策が遅れてしまうと、新規採用はもとより、既存の労働者がより条件の良い同業他社に移ってしまう可能性もあります。最終的には経営を揺るがす問題になりかねません。早急に働き方改革に取り組み、労働者それぞれが働きやすい会社づくりを行いましょう。

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